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オルゴール
オルゴール
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆39 藝」 作品社
1986(昭和61)年1月25日
入力者門田裕志
校正者noriko saito
公開 / 更新2015-02-10 / 2015-01-16
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 人形のをぢさん守屋三郎さんは、支那文学の奥野信太郎さんと漫画家の横山隆一さんとの丁度中間位の恰幅であつて、容貌はどこやらそのお二人に似てゐる。笑顔のいい気軽なところも、頭の禿ぐあひもまた似てゐる。お酒はいけないさうだから、その点は別として、先のお二人と共通する一種の童心ないしは仙骨みたいなものが守屋さんに於てもその風貌にあふれてゐるのが、工房に案内されてまづ私に納得された。
 工房は私ども二人の訪問者と主人と三人の膝を容れるのがやつとといふ空間をあました面積で、たいへん小造りにできてゐた。素人の手造りらしい感じのものであつた。一寸私どもは魔法の小箱に閉ぢこめられたやうな感じであつた。主人の仕事机らしいものはその奥まつたあたりにあつて、机上には「幸福のきのこ」といふ可愛いい松茸ができかかつてゐた。松茸は赤黄緑紫灰色とりどりに鮮明な絵具をぬられてくつきりと水玉の斑点を意匠に散らした寸にもたらないもので、それが兵隊のやうに並んでゐた。
「かういふものを息抜きにやつてゐるんですよ……」
 といはれるのは、別の根気な仕事はさうさう毎日続くものではないから、といふ意味であつた。
 さつそくオルゴールを見せていただく。オルゴールはどれもみな本格的な屋根と窓と煙突と或は鐘楼などをもつた構造のいい建物の中にしまひこまれてゐて、その入口のドアを開くと内部の楽器が鳴り出す仕組みになつてゐる。建物の構造はどれもみな釣合ひがよくしつかりとしてゐて、どこやら建築模型のやうなあんばい式な点もあつて一見オモチヤ臭くはない。それが両手の上に載るほどの大きさであるからオモチヤには相違ないが、守屋さんはそれらの建物に就てはまづ建築家としての建前から良心的で且つ審美的でなければなりませんね、といふ意見であつた。建物にはそれぞれ歴とした原型があつて、原型は写真や見取図や建築図面によつて精しく確かめられた上で、いくらか手心を加へて糞レアリズムに堕ちない用意が肝要です、といはれたのは至極尤もに聞えた。
「腑に落ちない点は専門の建築家に見てもらつてゐるんですよ……」
 といつて笑はれたのは、我れながらいくらか可笑しかつたのであらう。丹念な話である。その方の写真帖参考書も机上に積まれてゐた。とりわけ傑作の一つと見えた「セキスピヤーの家」といふのは、いづれそのうち早稲田の演劇博物館にでも寄贈をしようと考へてゐるんですが、一年余りまだかうして手離しかねてゐるんですといふ。その屋根にはうつすら塵がたまつてゐた。そのじぶんになると塗料の色彩も落ちついて、わるくけばけばしい光沢がうせて、なるほど渋く落ちつきがいい。ビニールを溶かしこんだといふ窓硝子は、むろんその一枚々々の数も配置も正確に原型に従つてゐるのが、とりわけ手際よく素人眼を驚かせるに充分である。その「セキスピヤーの家」からはやつと爪先にかかるほどのドアを開…

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