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ニャルラトホテプ
ニャルラトホテプ
原題NYARLATHOTEP
著者
翻訳者大久保 ゆう
文字遣い新字新仮名
入力者大久保ゆう
校正者
公開 / 更新2014-04-04 / 2015-08-19
長さの目安約 7 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 ニャルラトホテプ……這い寄る混沌……残ったのはもうわたしだけ……この何もない空を聞き手にして、お話ししようと思います。

 そもそものことは、はっきりとは思い出せません。でも何ヶ月か前です。みんなひどくぴりぴりしていました。世の中がひっくり返ろうとしているところへきて、なぜだか強く身に危険を感じて不安になる――あたりが、どこもかもが危なかったのです。夜をただわけもなく怖がる、そんな極端なときにしか感じないたぐいの〈危険〉です。思い出せば、道を歩くみなさん真っ青な浮かない顔で、何かの前触れだとか、これから先のこととかささやくのですが、どなたもわざわざ繰り返したり、聞いたことにうなずいたりはなさいませんでした。国中はこれからとんでもない罰を受けるかのようで。星空の奥の深い闇から吹き流れる冷ややかな風に、人は暗くうら寂しいところで震えていました。四つの季節がめぐるなか、悪魔のような異変が起こる――時は秋で、暑さがいつまでも引かず、誰もが胸に抱くのです。この世界、いえもしかするとこの宇宙は、もう暴走するだけではないのか。わたしたちの知る神さまも、神さまの天候を操る力も、あるいはあずかり知らぬ力も、もはや及ばないのでは……。
 そんなときです、ニャルラトホテプがエジプトからきたのは。何ものなのか誰にもわかりません。ただ古代エジプトの血族とかで、ファラオによく似た顔立ちでした。農夫のみなさんは目にするやひざをつきますが、わけは本人にもわかりません。あの方は言うのです、われは二千と七〇〇年の闇から目覚めけり、われはこの星ならぬ地よりみことのりを預かれりと。文明の進んだこの地によみがえったニャルラトホテプは、暗い髪の毛、くびれた身体の、黒いお方――いつもガラスと金属の不思議な器具を頼りにしては、それをもっと不思議な道具にくっつけて。あの方の話には、科学のことが多く――電気学とか心理学とか――そのあとに力を見せつけられるのです。それで目の当たりにした人はみな言葉をなくして、たちまちその名がとどろくようになりました。人は隣の者にニャルラトホテプを見に行けと薦め、震え上がるのです。やがてニャルラトホテプの行くところに安らぎはなくなります。だって、深い夜に悪夢の叫びがこだまするのですよ。悪夢にうなされることがみんなの悩みになるなんて、そんなの今までなかったのに。こうなると、いくら賢い方でも、いっそ深い夜に眠るのを禁じてくれればと願うしか。そうすれば、街に悲鳴が満ちて、青く哀れむ月が思い悩むこともなくなり、ただ橋の下、緑の水面に、病める空の下、崩れた塔に、光をたゆとうだけとなりましょう。
 思い出すのは、ニャルラトホテプがわたしの街――大きく、歴史もある、犯罪の絶えない恐ろしい街――にやってきたときのことです。友人からあの方のことをうかがって、そのお話が、ぞくぞくするほどの魅力があ…

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