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黒手組
くろてぐみ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「江戸川乱歩全集 第1巻 屋根裏の散歩者」 光文社文庫、光文社
2004(平成16)年7月20日
初出「新青年」博文館、1925(大正14)年3月
入力者門田裕志
校正者岡村和彦
公開 / 更新2016-11-10 / 2016-11-12
長さの目安約 37 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

(上)顕れたる事実

 またしても明智小五郎の手柄話です。
 それは、私が明智と知合になってから一年程たった時分の出来事なのですが、事件に一種劇的な色彩があって中々面白かったばかりでなく、それが私の身内のものの家庭を中心にして行われたという点で、私には一層忘れ難いのです。
 この事件で、私は、明智に暗号解読のすばらしい才能のあることを発見しました。読者諸君の興味の為に、彼の解いた暗号文というのを先ず冒頭に掲げて置きましょうか。
一度お伺いしたい/\と存じながらつい好い折がなく失礼ばかり致して居ります割合にお暖かな日がつゞきますのね是非此頃にお邪魔させていただきますわ扨日外は[#「は」は「×」との重ね書き]つまらぬ品物をお贈りしました処御叮嚀なお礼を頂き痛み入りますあの手提袋は実はわたくしがつれ/″\のすさびに自か[#「か」は「×」との重ね書き]ら拙い刺繍をしました物で却ってお叱りを受けるかと心配したほどですのよ歌の方は近頃はいかが?時節柄御身お大切に遊ばして下さいまし
さよなら
 これはある葉書の文面です。忠実に原文通り記して置きました。文字を抹消したところから各行の字詰に至るまで凡て原文のままです。

 さてお話ですが、当時私は避寒旁々少し仕事を持って、熱海温泉のある旅館に逗留していました。毎日幾度となく湯につかったり、散歩したり、寝転んだり、そしてその暇々に筆を執ったりして至極暢気に日を送っていたのです、ある日のことでした。又しても一風呂あびて好い気持に暖まった身体を、日当りのいい縁側の籐椅子に投げかけ、何気なくその日の新聞を見ていますと、ふと大変な記事が眼につきました。
 当時都には「黒手組」と自称する賊徒の一団が人もなげに跳梁していまして、警察のあらゆる努力もその甲斐なく、昨日は某の富豪がやられた。今日は某の貴族が襲われたと、噂は噂を産んで、都の人心は兢々として安き日もなかったのです。従って新聞の社会面なども、毎日毎日その事で賑っていましたが、今日とても「神出鬼没の怪賊云々」という様な三段抜きの大見出しで相も変らず書立てています。併し私はそうした記事にはもう慣れっこになっていて別に興味を惹かれませんでしたが、その記事の下の方に、色々と黒手組の被害者の消息を並べた中に、小さい見出しで「××××氏襲わる」という十二三行の記事を発見して非常に驚きました。といいますのは、その××××氏はかく云う私の伯父だったからです。記事が簡単でよく分りませんけれど、何でも娘の富美子が賊に誘拐され、その身代金として一万円を奪われたということらしいのです。
 私の実家は極く貧乏で、私自身もこうして温泉場に来てまで筆稼ぎをしなければならぬ程ですが、伯父はどうして中々金持なのです。二三の相当な会社の重役なども勤めていますし、十分「黒手組」の目標になる資格はありました。日頃なにかと…

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