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「もく星」号の謎
「もくせい」ごうのなぞ
副題――白鳩号遭難事件を回顧して――
――しろはとごうそうなんじけんをかいきして――
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第六巻」 岩波書店
2001(平成13)年3月5日
初出「文藝春秋 第三十巻第八号」文藝春秋新社、1952(昭和27)年7月1日
入力者kompass
校正者砂場清隆
公開 / 更新2016-04-09 / 2016-03-04
長さの目安約 15 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

「もく星」号の遭難も、桜木町事件につぐ大悲惨事であった。この事件に私は、直接の関係は何もないが、航空機の遭難には少し因縁があるので、思いついたことを書き止めておく。
 第一に、このマーチン機には、私は二度ばかり乗ったことがある。そして航空会社の人の話を真に受けて、これは非常な優秀機だと思っていたので、今度の事件の新聞記事を読んで、少し肌寒い思いをした。
 去る二月二十八日にも、札幌行のマーチンに乗った。その日は、初めダグラスが飛んだのであるが、離陸後間もなく発動機に故障が起きたので、羽田に引き返し、マーチンに乗り換えたのである。ダグラスの方も、大分使い古した飛行機らしい。発動機の調子が悪いので、前日から修理をしていたそうである。当日もそのために出発が三時間もおくれて、やっと修理をすませて、すぐ飛び出したわけである。ところが離陸して、東京湾の上へ出たと思ったら、すぐ機体に妙な振動を感じて、金属的なへんな音が二、三回したと思ったら、右の発動機が一つ止ってしまった。
 幸い四発であるから、飛行には差しつかえがない。しかし海の上で自分の乗っている飛行機のプロペラが、一つ止っているのを窓越しに見るのは、あまりいい気持のものではない。こういう時に、飛行場へ引き返そうとして、すぐに旋回をしてはいけないのである。あの程度の大型飛行機になると、旋回で高度がかなり落ちるので、低空で旋回することは、大いに危険なのである。もちろん操縦士は、十分心得があるので、そのまま直線飛行をつづけていた。これなら安心だと思ったが、厄介なことに、発動機が一つ止っているのと、超満員の乗客だったもので、飛行機がなかなか上昇してくれない。そのままで十分近くも飛んで、やっと必要高度がとれて、無事飛行場へ引き返すことが出来た。しかしその間、やはり気味は悪かった。それからマーチンに乗り換えたわけであるが、今だったら、皆が少し尻込みをしたかもしれない。安全率と心理作用とは、別問題である。

 四月九日朝、七時三十三分。日本航空会社福岡定期第一便マーチン二〇二型「もく星」号が、羽田を出発した。気象状態は、千ミリバールの低気圧が、潮岬の南方にあり、天気概況は「本邦の天気は全般的に悪くなってきている」という程度であった。天気予報も「北東の風くもり勝ち、時々小雨」というので、現代の飛行機にとって、航空不適というほどではなかった。同日十一時に、中央気象台から大雨特報が出たが、それは遭難後の話である。
 この気象の問題をまず片づけておく。十日朝刊の一紙は、羽田の航空気象観測所で、航空不可能の気象状態と断定したのに、それを無視して飛び出したという記事が出た。これは大問題であって、その後の新聞にも、この点を論評して、日航を非難した文章が出た。しかしこれは間違いである。中央気象台長和達清夫博士が、十三日の毎日新聞投書欄に「気象台…

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