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清々しさの研究の話
すがすがしさのけんきゅうのはなし
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「中谷宇吉郎集 第二巻」 岩波書店
2000(平成12)年11月6日
初出「科学 第八巻第十四号」1938(昭和13)年12月1日
入力者kompass
校正者岡村和彦
公開 / 更新2017-08-18 / 2017-07-17
長さの目安約 20 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 この頃ハンチントンの『気候と文明』が岩波文庫に出たので、前から読みたいと思っていた矢先、早速買って見たが、大変面白かった。中には少しくだくだしいところもあるし、随分身勝手な資料を基とした議論もあって、勿論あのままに簡単に承服する訳には行くまいと思われる点もあるが、私はこの方面には全くの素人なので、この新しい地理学の全面的批判などをする気持は勿論ないし、又しようと思っても出来る話でもない。ただ少し身勝手だと思われる点は、例えば人種に本質的の優劣があるという例に、アメリカにおける黒人と白人との能率の比較をしている条りなどがあるからである。例えば白人と黒人との農民が経営している農場の広さの比較とか、収入の比較などから、白人が人種として本質的に優れているというような結論を平気で出しているようである。その結論自身はあるいは本当なのかも知れないが、その説明が少し私などには腑に落ちぬところがあるようにも思われる。色々な物質的条件が、特に南部では、白人にとっても黒人にとっても現在では平等であるのに、この差が出ているという意味の説明がついているのである。それもアメリカの事情をよく知らない私にとっては、真偽のほどは分らないのであるが、もしそれが本当としても、過去数世紀にわたって、白人がどのように黒人を待遇してきて、そしてそのために黒人が精神的にどのような打撃を受けてきているかということを考えてみたら、軽々しくそういう結論は下せないのではなかろうかという気がする。
 それからもっとひどいのは「文明分布図」である。世界中の学者、政治家などから、色々な項目について「文明度の点数」をつけて貰って、それを地図の上に書き込んで作ったものである。その文明を測る項目というのは、創意や、新思想を形成してこれを実現する能力、哲学的体系を展開する能力などなど十二項目あって、十点を満点として勝手に点をつけて貰うのである。その一例を見ると、創意力は、英十、米十、仏六、独八、日三で、長期にわたり世界の広汎なる地域に遠大なる事業を経営する能力は、英十、米十、仏五、独六、日三などという類いである。そして五十四人中アメリカ人が二十五人いるところのそれらの資料を平均して、世界の文明分布図を作っているのであるが、その度胸には少々辟易した。その寄稿者の中には日本の有名な学者も三人いる。そういう人たちは、勿論もっと良い点数を日本のためにつけているのであるが、多勢に無勢ではとてもかなわない。
 幸いなことには、こういう議論は、ハンチントンの研究の中では全くの蛇足なのであって、正味の大切なところは、気候の刺戟が人間の精神的および肉体的の能率にいかに影響するかという有名な彼の刺戟説なのである。そしてハンチントン自身の研究も面白いが、その中に引用されている色々な細かい研究には随分面白いことが沢山ある。例えば、植物をその生長に…

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