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全都覚醒賦
ぜんとかくせいふ
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「白秋全集 1」 岩波書店
1984(昭和59)年12月5日
初出「早稻田學報 第百拾貮號」早稻田學會、1905(明治38)年1月1日
入力者フクポー
校正者岡村和彦
公開 / 更新2016-11-02 / 2016-11-25
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



静かにすゝむ時の輪の
軋つたへて幽かにも――
白光、小鳥にゆるゝごと
明日の香ゆらぐ夢の浪
薄紫にたゞよひて
白帆張りゆく霊の舟
円らに薫る軟かぜの
千里の潮の楽の音と
人が息吹は力ある
いのちの韻、永久に
血の脈搏と大闇の
沈黙やぶりて響くまで――
神澄みわたる雪の夜の
聖きひと夜を神秘なる
天の摂理と黙示との
悟うるべく厳かに
書万巻の廬をいでゝ
雪に清しき頬をうたせ
我、鶴[#挿絵]のよそほひに
鵝毛みだるゝ玉階を
木々の白彩すりぬけて
台にのぼれば雲霽るゝ
天は金沙の星月夜
あふけば諸辰十二宿
銀の瓔珞かゞやかに
宝座をめぐる天宮の
霊彩高く、端厳と
華麗を尽くし真無量
善美まつたく整へば
燦爛として聖天に満つ
永劫の光明と歓楽に
頌歌あふるゝ微妙さと
香華みだるゝ眩ばゆさに
渇仰熱つく跪づき
涙のごひてさらにまた
燃ゆる瞳をめぐらして
闇に下界をうかゞへば
広量無辺啻円う
包み繞らす雪絹の
無塵の衣、水の帯
無垢清浄のしろ銀の
衾白彩ひきかつぎ
譬へば、仏陀、無憂樹の
栄光の花ふる瑞かけに
蘇生浄化の果をひそめ
いま寂滅の落暉を
瑞雲くだる白蓮華
諸天諸菩薩比丘比丘尼
優婆夷優婆塞うちめぐる
蓮座にかほる大菩提
拈華微笑の尊とさに
しばし涅槃に入るごとく
いと安らかに厳かに
あゝ天が下、天ぐもの
そぎたつきわみ、畳なほる
青垣山の山脈の
むか伏すかぎり、八百潮の
潮の八百路の沖津波
辺にたつかぎり、秀つ国の
権威と光栄つかさどる
全都の偉霊二百万
率つて白日の戦闘の
その激甚と繁雑に
痛み傷つき倦み疲れ
闇にしばらく―――白雪に
大傘かざし、深みどり
褪せず枯れざる驕慢に
白日、天の日あひしらひ
夕、月の輪貫きて
夜天の宿を支へつゝ
世の盛衰をひやゝかに
千歳の暦ひるがえし
神さび立てる常盤木の
古るき匂にたゝずみて
更らにすかせば眼に暗らき
九百九町の静まりに
柳やなぎの家を守り
冷たう光る大路の灯
小路は暗らし、病人の
夜の恐怖に血も冷えし
頬に沁み照る燭の火か
小窓を洩れて青白う
一点二点さゆらげる
聴けば巽に、聖代の
新領かけて三千里
古海めぐる二千里の
闇の日の本四方に見て
鎮護まします王城の
夜を警しむる衛兵が
番ふ言葉も震帯び
「休め」「かしこし」「寒し」「いざ」
「さらば」の声の時折に
さては安寧と平和に
市の夢守護る町々の
巡羅が警杖もねぶたげに
ひゞく地心の骨凝り
かくていよ/\更けゆけば
遥か水澄む大川の
魚氷にのぼる勢も
夜の大気の寒冷に
輪波耳うちひゞくほか―――
大地静かにふしまろび
一夜のなかに蘇る
生存の気と活動の
大なる力、憧憬と
希望の熱情、満ち足ろふ
夢に斎かせ、天ひゞく
高き呼吸と響音と
進歌の律呂譜と納め
啻[#挿絵]として眠るかな



誇る可きかな常闇に
長き沈黙を圧したる
権力を驕るほゝゑみに…

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