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三つの眼鏡
みっつのめがね
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集1」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日
初出「九州日報」1922(大正11)年12月
入力者柴田卓治
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2000-01-19 / 2014-09-17
長さの目安約 4 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 武雄さんはお母さんが亡くなられてから大層わるくなりました。今日も何か面白いいたずらは無いかと考えてお座敷に来ましたら、机の上にお祖母さんの眼鏡がありました。武雄さんは手を拍って喜んで、その眼鏡を懐に入れました。それからお父さんとお姉さんの眼鏡も探し出して一所に懐に入れて、どこかへ遊びに行きました。
 お祖母さんがお座しきに帰って来られますと、眼鏡が無いのでまごまごしておられます。お父さんは支度して出かけようとなさいますと、大切な金ぶちが無くなっています。お姉さんが買いものから帰って来られますと、これも眼鏡がありません。
「ああ、きっと武雄さんよ。あたし困っちまうわ。眼鏡がなくちゃ、晩のお支度が出来やしない」
「弱ったな。俺も眼鏡が無くちゃ、向うへ行って用が足せない。仕方がない。やめる事にしよう」
「わたしも縫い物が出来やせん。お母さんが亡くなってからほんとに武雄はわるくなった」
 と三人は顔見合わせて困ってしまいました。仕方がないから何もかもやめて、三人で手探りに晩の支度を初めました。
 そのうちに御飯の火を焚き付ける段になると、お姉さんはマッチの箱の蓋がすこし開いているのを気が付かずにマッチを摺ったために、マッチ箱の中のマッチに火がついて一時に燃えて、姉さんは手にやけどをしてしまいました。
 姉さんが泣き出しましたので、祖母さんがお座しきから出てくると、暗い処で摺鉢につまずいて足をたがわかしてしまいました。お父さんが驚いて介抱をし、今度は自分で御飯の支度をしようとしますと、今度は肝腎のマッチが無くなりました。どこを探しても見当らないので、お父さんは近所までマッチを買いに行かれた留守に、武雄さんが帰って来て、
「御飯御飯」
 と怒鳴りながらお茶の間へ座り込みました。
 お姉さんは泣いています。お祖母さんはうんうんうなっています。
「どうしたのです」
 といくら尋ねても返事をしません。武雄さんはお腹が空いて泣き出しました。
「お母ちアん」
 けれどもお母さんは返事も何にもなさいませんでした。そこへお父さんが帰って来られて、
「武雄、お母さんが見たければ、その眼鏡を三つとも掛けて見つけろ。そうして御飯を食べさせてもらえ」
 と云って、お倉の中へ入れられました。
 お倉の中へ入れられた武雄さんは、大あばれにあばれて泣きましたが、そのうちに泣く力も無くなる位お腹が空いてきました。力も何も無くなって冷たい板張りの上に寝ながら、「ああ、お母さんがいらっしゃると、こんな時には直ぐにあやまって御飯を食べさせて下さるのになあ」と思ってメソメソ泣いておりましたが、その中に不図、最前お父さんが、「そんなにお母さんに会いたければ、その眼鏡を三つともかけて探してみろ」と云われた言葉を思い出しました。
 武雄さんは眼鏡を取り出して三つとも掛けて見ました。けれどもいつまで待っても何も見…

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