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ルルとミミ
ルルとミミ
著者
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集1」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日
初出「九州日報」1926(大正15)年3~4月
入力者柴田卓治
校正者江村秀之
公開 / 更新2000-05-17 / 2014-09-17
長さの目安約 24 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

 むかし、ある国に、水晶のような水が一ぱいに光っている美しい湖がありまして、そのふちに一つの小さな村がありました。そこに住んでいる人たちは親切な人ばかりで、ほんとに楽しい村でした。
 けれどもその湖の水が黒く濁って来ると、この村に何かしら悲しいことがあると云い伝えられておりました。
 この村にルルとミミという可愛らしい兄妹の孤児が居りました。
 二人のお父さんはこの国でたった一人の上手な鐘造りで、お母さんが亡くなったあと、二人の子供を大切に大切に育てておりました。
 ところが或る年のこと、この村のお寺の鐘にヒビが入りましたので、村の人達に頼まれて新しく造り上げますと、どうしたわけか音がちっとも出ません。お父さんはそれを恥かしがって、或る夜、二人の兄妹を残して湖へ身を投げてしまいました。
 その時、この湖の水は一面に真黒く濁っていたのでした。そうして、ルルとミミのお父さんが身を投げると間もなく、湖はまたもとの通りに奇麗に澄み渡ってしまったのでした。
 それから後、この村のお寺の鐘を造る人はありませんでした。夜あけの鐘も夕暮れの鐘も、または休み日のお祈りの鐘もきこえないまま、何年か経ちました。
 村の人々は皆、ルルとミミを可愛がって育てました。そうして、いつもルルに云ってきかせました。
「早く大きくなって、いい鐘を作ってお寺へ上げるのだよ。死んだお父さんを喜ばせるのだよ」
 ルルはほんとにそうしたいと思いました。ミミも、早くお兄さんが鐘をお作りになればいい。それはどんなにいい音がするだろうと、楽しみで楽しみでたまりませんでした。
 二人はほんとに仲よしでした。そうしてよく湖のふちに来て、はるかにお寺の方を見ながらいつまでもいつまでも立っておりました。
「おおかたお寺の鐘撞き堂を見て、死んだお父さんのことを思い出しているのだろう。ほんとに可愛そうな兄妹だ」
 と村の人々は云っておりました。
「水が濁るとよくないことがある」
 と云われていた湖の水晶のような水が、またもすこしずつ薄黒く濁りはじめました。村の人々は皆、どんな事が起るかと、おそろしさのあまり口を利くものもありませんでした。しまいにはみんな顔を見あわせて、ため息ばかりするようになりました。それでも湖の水は、夜があけるたんびに、いくらかずつ黒くなってゆくのでした。
 その時にルルは、お父さんが残した仕事場に這入って、一生懸命で鐘を作っていました。そうして、いよいよ一ツの美事な鐘をつくり上げましたので、喜び勇んで村の人にこの事を話しました。
「鐘が出来ました。どうぞお寺へ上げて下さい」
 村の人々はわれもわれもとルルが作った鐘を見物に来ました。その立派な恰好を撫でて見たり、又はソッとたたいて見て、その美しい音にききとれたりしましたが、みんなそのよく出来ているのに感心をしてしまいました。そうして、日をきめてお寺…

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