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猟奇歌
りょうきうた
著者
文字遣い新字旧仮名
底本 「夢野久作全集3」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年8月24日
初出「探偵趣味」1927(昭和2)年8月、「猟奇」1928(昭和3)~1932(昭和7)年、「ぷろふいる」1933(昭和8)~1935(昭和10)年
入力者柴田卓治
校正者久保あきら
公開 / 更新2000-05-06 / 2014-09-17
長さの目安約 18 ページ(500字/頁で計算)
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本文より

殺すくらゐ 何でもない
と思ひつゝ人ごみの中を
濶歩して行く

ある名をば 叮嚀に書き
ていねいに 抹殺をして
焼きすてる心

ある女の写真の眼玉にペン先の
赤いインキを
注射して見る

この夫人をくびり殺して
捕はれてみたし
と思ふ応接間かな

わが胸に邪悪の森あり
時折りに
啄木鳥の来てたゝきやまずも

  *     *     *

此の夕べ
可愛き小鳥やは/\と
締め殺し度く腕のうづくも

よく切れる剃刀を見て
鏡をみて
狂人のごとほゝゑみてみる

高く/\煙突にのぼり行く人を
落ちればいゝがと
街路から祈る

殺すぞ!
と云へばどうぞとほゝゑみぬ
其時フツと殺す気になりぬ

人の来て
世間話をする事が
何か腹立たしく殺し度くなりぬ

今のわが恐ろしき心知るごとく
ストーブの焔
くづれ落つるも

ピストルのバネの手ざはり
やるせなや
街のあかりに霧のふるとき

ぬす人の心を抱きて
大なる煉瓦の家に
宿直をする

かゝる時
人を殺して酒飲みて女からかふ
偉人をうらやむ

人体のいづくに針を刺したらば
即死せむかと
医師に問ひてみる

春の夜の電柱に
身を寄せて思ふ
人を殺した人のまごゝろ

殺しておいて瞼をそつと閉ぢて遣る
そんな心恋し
こがらしの音

ピストルの煙の
にほひばかりでは何か物足らず
手品を見てゐる

ペンナイフ
何時までも銹びず失くならず
その死にがほの思ひ出と共に

  *     *     *

一番に線香を立てに来た奴が
 俺を…………
………と云うて息を引き取る

若い医者が
 俺の生命を預つたと云うて
ニヤリと笑ひ腐つた

だしぬけに
 血みどろの俺にぶつかつた
あの横路地のくら暗の中で

頭の中でピチンと何か割れた音
 イヒヽヽヽヽ
……と……俺が笑ふ声

白い乳を出させようとて
 タンポヽを引き切る気持ち
彼女の腕を見る

棺の中で
 死人がそつと欠伸した
その時和尚が咳払ひした

抱きしめる
 その瞬間にいつも思ふ
あの泥沼の底の白骨

ニセ物のパスで
 電車に乗つてみる
超人らしいステキな気持ち

青空の隅から
 ジツト眼をあけて
俺の所業を睨んでゐる奴

自転車の死骸が
 空地に積んである
乗つてゐた奴の死骸も共に

闇の中から血まみれの猿が
 ヨロ/\とよろめきかゝる
俺の良心

監獄に
 はいらぬ前も出た後も
同じ青空に同じ日が照つてゐる

白い蝶が線路を遠く横切つて
 汽車がゴーと過ぎて
血まみれの恋が残る

見てはならぬものを見てゐる
 吾が姿をニヤリと笑つて
ふり向いて見る

真夜中に
 心臓が一寸休止する
その時にこはい夢を見るのだ

枕元の花に薬をそゝぎかけて
 ほゝゑむでねむる
肺病の娘

倉の壁の木の葉が
 幽霊の形になつて
生血がしたゝる心臓が
切り出されたまゝ

  *     *     …

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