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秋の瞳
あきのひとみ
作品ID11
著者八木 重吉
文字遣い新字旧仮名
底本 「八木重吉全詩集1」 ちくま文庫、筑摩書房
1988(昭和63)年8月30日
入力者j.utiyama
校正者富田倫生
公開 / 更新1998-05-01 / 2014-09-17
長さの目安約 19 ページ(500字/頁で計算)

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本文より



 私は、友が無くては、耐へられぬのです。しかし、私には、ありません。この貧しい詩を、これを、読んでくださる方の胸へ捧げます。そして、私を、あなたの友にしてください。
[#改ページ]

息を 殺せ

息を ころせ
いきを ころせ
あかんぼが 空を みる
ああ 空を みる

白い枝

白い 枝
ほそく 痛い 枝
わたしのこころに
白い えだ

哀しみの 火矢

はつあきの よるを つらぬく
かなしみの 火矢こそするどく
わづかに 銀色にひらめいてつんざいてゆく
それにいくらのせようと あせつたとて
この わたしのおもたいこころだもの
ああ どうして
そんな うれしいことが できるだらうか

朗らかな 日

いづくにか
ものの
落つる ごとし
音も なく
しきりにも おつらし

フヱアリの 国

夕ぐれ
夏のしげみを ゆくひとこそ
しづかなる しげみの
はるかなる奥に フヱアリの 国をかんずる

おほぞらの こころ

わたしよ わたしよ
白鳥となり
らんらんと 透きとほつて
おほぞらを かけり
おほぞらの うるわしいこころに ながれよう

植木屋

あかるい 日だ 
窓のそとをみよ たかいところで
植木屋が ひねもすはたらく

あつい 日だ
用もないのに
わたしのこころで
朝から 刈りつづけてゐるのは いつたいたれだ

ふるさとの 山

ふるさとの山のなかに うづくまつたとき
さやかにも 私の悔いは もえました
あまりにうつくしい それの ほのほに
しばし わたしは
こしかたの あやまちを 讃むるようなきもちになつた

しづかな 画家

だれでも みてゐるな、
わたしは ひとりぼつちで描くのだ、
これは ひろい空 しづかな空、
わたしのハイ・ロマンスを この空へ 描いてやらう

うつくしいもの

わたしみづからのなかでもいい
わたしの外の せかいでも いい
どこにか 「ほんとうに 美しいもの」は ないのか
それが 敵であつても かまわない
及びがたくても よい
ただ 在るといふことが 分りさへすれば、
ああ ひさしくも これを追ふにつかれたこころ

一群の ぶよ

いち群のぶよが 舞ふ 秋の落日
(ああ わたしも いけないんだ
他人も いけないんだ)
まやまやまやと ぶよが くるめく
(吐息ばかりして くらすわたしなら
死んぢまつたほうが いいのかしら)

鉛と ちようちよ

鉛のなかを
ちようちよが とんでゆく

花になりたい

えんぜるになりたい
花になりたい

無造作な 雲

無造作な くも、
あのくものあたりへ 死にたい

大和行

大和の国の水は こころのようにながれ
はるばると 紀伊とのさかひの山山のつらなり、
ああ 黄金のほそいいとにひかつて
秋のこころが ふりそそぎます

さとうきびの一片をかじる
きたない子が 築地からひよつくりとびだすのも…

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