えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
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![]() ゆうせいしょくみんせつ |
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作品ID | 1238 |
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著者 | 海野 十三 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「海野十三全集 第1巻 遺言状放送」 三一書房 1990(平成2)年10月15日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | ペガサス |
公開 / 更新 | 2002-12-08 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 9 ページ(500字/頁で計算) |
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「編集長、ではもう外に伺ってゆくことは御座いませんネ」
「まアそんなところだね。とにかく相手は学界でも特に有名な変り者なんだから、君の美貌と、例のサービスとを武器として、なんとか記事にしてきて貰いたい。その成績によっては、君の常々欲しいと云っておったロードスターを購ってやらんものでもない」
「アラ、きっと御約束しましたワ。ロードスターを買って下されば、あの人との結婚式を半年も早めることができるんですの、まア嬉しい」
「嬉しがるのは後にして、一刻も早くぶつかって来給え。はイ、円タク代が五十銭!」
* * *
「ゴーゴンゾラ博士の研究室は何階ですの」
「第三十八階!」
「そこまで、やって頂戴」
「はい、上へ参ります。御用の階数を早く仰有って下さいまし、二階御用の方はございませんか。化粧品靴鞄ネクタイ御座います。三階木綿類御座います。お降りございませんか。次は四階絹織物銘仙羽二重御座います。五階食堂ございます。ええ、六階、七階、あとは終点まで急行で御座います。途中お降りの方は御乗換えをねがいます。ありませんか。では三十八階でございます。どなたもこれまでで御座います。お忘れもののないように、毎度ありがとう御座い」
「まア、ここは屋上。博士の研究室なんてありゃしないわ。あら、あすこにネーム・プレートが下っている。まるで、エッフェル塔の天辺に鵠が巣をかけたようね。では、下界で待っているあの人のために、第二にはロードスターのために、第三は原稿料のために、第四は編集長のために、勇気を出して、この鉄梯子に掴まって登りましょう。誰も、梯子の下に、タカリやしないでしょうね。エッサ、エッサ、エッサラエッサ」
カンカンと、ノックの音。
「ゴーゴンゾラ博士!」
「……」
「ゴーゴンゾラ博士ったらサ! ご返辞なさらないと、ペンチで高圧電源線を切断ってしまいますよ、アリャ、リャ、リャ、リャ……」
「これ、乱暴なことをするのは、何処の何奴じゃ」
「博士ね、ここに紹介状を持って参りましたワ」
「おお、なんと貴女は、美女であることよ! 紹介状なんか見なくとも宜しい。さあ、早く入った、入った」
「オヤオヤ、あたしのイットが、それほど偉大なる攻撃力があるとは、今の今まで知らなかった。では、御免遊ばせ。まア博士の研究室の此の異様なる感覚は、どうでしょう! まるでユークリッドの立体幾何室を培養し、それにクロム鍍金を被せたようですワ。博士、宇宙はユークリッドで解けると御考えですか」
「近ければ解け、遠ければ解けぬサ」
「博士の御近業は、一体どのくらい遠くまでを、問題になさっています」
「近業とは?」
「判っているじゃありませんの。謂うだけ野暮の『遊星植民説』!」
「ははア、そんなことで来なすったか。だが遊星植民には、欠くべからざる必要条件が一つあるのを御存じかな」
「存じませんワ、博士…