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地獄街道
じごくかいどう
作品ID1246
著者海野 十三
文字遣い新字新仮名
底本 「海野十三全集 第2巻 俘囚」 三一書房
1991(平成3)年2月28日
初出「モダン日本」1933(昭和8)年9月号
入力者tatsuki
校正者土屋隆
公開 / 更新2004-06-21 / 2014-09-18
長さの目安約 23 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     1


 銀座の舗道から、足を踏みはずしてタッタ百メートルばかり行くと、そこに吃驚するほどの見窄らしい門があった。
「おお、此処だ――」
 と辻永がステッキを揚げて、後から跟いてくる私に注意を与えた。
「ム――」
 まるで地酒を作る田舎家についている形ばかりの門と選ぶところがなかった。
「さア、入ってみよう」
 辻永は麦藁帽子をヒョイと取って門衛に挨拶をすると、スタコラ足を早めていった。私も彼の後から急いだけれど、レールなどが矢鱈に敷きまわしてあって、思うように歩けなかった。そして辻永の姿を見失ってしまった。
 私は探偵小説家だ。辻永は私立探偵だった。
 だから二人は知り合ってから、まだ一年と経たないのに十年来の知己よりも親しく見えた。それはどっちも探偵趣味に生くる者同士だったからであった。しかし正直のところ辻永は私よりもずっと頭脳がよかった。彼は私を事件にひっぱりだしては、頭脳の働きについて挑戦するのを好んだ。それは彼の悪癖だと気にかけまいとするが、時には何か深い企みでもあるのではないかと思うことさえあった。
「オーイ。こっちだア――」
 思いがけない方角から、辻永の声がした。オヤオヤと思って、声のする方に近づいてゆくと一つの古ぼけた建物があった。それをひょいと曲ると、イキナリ眼前に展げられた異常な風景!
 夥しい荷物の山。まったく夥しい荷物の山だった。山とは恐らくこれほど物が積みあげられているのでなければ、山と名付けられまい。――さすがは大貨物駅として知られるS駅の構内だった。
 辻永は大きな木箱の山の側に立って、鼻を打ちつけんばかりに眼をすり寄せている。早くも彼氏、何物かを掴んだ様子だ。小説家と違って本当の探偵だけに、いつでも掴むのがうまい。あまりうまいので、私はときどき自分が小説家たることを忘れて彼の手腕に嫉妬を感ずるほどだ。
「これだこれだ山野君」と彼は私の名を思わず大きく叫んだ。「例の箱がいつ何処で作られたんだかすっかり判っちまったよ。第一回の箱は七月四日の製造だ。第二回目のは七月十八日の製造だ。そして第三回目のは今から一週間前、実に八月八日の製造だということが判ったよ」
「そりゃどうして?」私はすっかり駭いた。
「ナニこれは殆んど努力で判ったのさ。今日は箱の山がどんな形に、どんな数量を積み重ねてあるかを知りたかったのだ。あとは発送簿の数量を逆に検べてゆくと、あの箱を積んだ日、随ってあれを製造した日がわかるという順序なんだ」
 よくは呑みこめなかったけれど、やっぱり頭脳の冴えた辻永だと感心した。
 例の箱とは、前後三回に亙って発見された有名なる箱詰屍体事件の、その箱のことなのである。
 細かいことは省略するが、その三つの屍体はすべて此の貨物積置場に積まれてあったビール箱の中から発見されたのだった。その箱は人間の身体がゆっくり入るばかりか…

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