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中国怪奇小説集
ちゅうごくかいきしょうせつしゅう |
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作品ID | 1298 |
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副題 | 03 捜神記(六朝) 03 そうじんき(りくちょう) |
著者 | 岡本 綺堂 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「中国怪奇小説集」 光文社文庫、光文社 1994(平成6)年4月20日 |
入力者 | tatsuki |
校正者 | もりみつじゅんじ |
公開 / 更新 | 2003-09-15 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 33 ページ(500字/頁で計算) |
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主人の「開会の辞」が終った後、第一の男は語る。
「唯今御主人から御説明がありました通り、今晩のお話は六朝時代から始める筈で、わたくしがその前講を受持つことになりました。なんといっても、この時代の作で最も有名なものは『捜神記』で、ほとんど後世の小説の祖をなしたと言ってもよろしいのです。
この原本の世に伝わるものは二十巻で、晋の干宝の撰ということになって居ります。干宝は東晋の元帝に仕えて著作郎となり、博覧強記をもって聞えた人で、ほかに『晋紀』という歴史も書いて居ります。、但し今日になりますと、干宝が『捜神記』をかいたのは事実であるが、その原本は世に伝わらず、普通に流布するものは偽作である。たとい全部が偽作でなくても、他人の筆がまじっているという説が唱えられて居ります。これは清朝初期の学者たちが言い出したものらしく、また一方には、たといそれが干宝の原本でないとしても、六朝時代に作られたものに相違ないのであるから、後世の人間がいい加減にこしらえた偽作とは、その価値が大いに違うという説もあります。
こういうむずかしい穿索になりますと、浅学のわれわれにはとても判りませんから、ともかくも昔から言い伝えの通りに、晋の干宝の撰ということに致して置いて、すぐに本文の紹介に取りかかりましょう」
首の飛ぶ女
秦の時代に、南方に落頭民という人種があった。その頭がよく飛ぶのである。その人種の集落に祭りがあって、それを虫落という。その虫落にちなんで、落頭民と呼ばれるようになったのである。
呉の将、朱桓という将軍がひとりの下婢を置いたが、その女は夜中に睡ると首がぬけ出して、あるいは狗竇から、あるいは窓から出てゆく。その飛ぶときは耳をもって翼とするらしい。そばに寝ている者が怪しんで、夜中にその寝床を照らして視ると、ただその胴体があるばかりで首が無い。からだも常よりは少しく冷たい。そこで、その胴体に衾をきせて置くと、夜あけに首が舞い戻って来ても、衾にささえられて胴に戻ることが出来ないので、首は幾たびか地に堕ちて、その息づかいも苦しく忙しく、今にも死んでしまいそうに見えるので、あわてて衾を取りのけてやると、首はとどこおりなく元に戻った。
こういうことがほとんど毎夜くり返されるのであるが、昼のあいだは普通の人とちっとも変ることはなかった。それでも甚だ気味が悪いので、主人の将軍も捨て置かれず、ついに暇を出すことになったが、だんだん聞いてみると、それは一種の天性で別に怪しい者ではないのであった。
このほかにも、南方へ出征の大将たちは、往々こういう不思議の女に出逢った経験があるそうで、ある人は試みに銅盤をその胴体にかぶせて置いたところ、首はいつまでも戻ることが出来ないで、その女は遂に死んだという。
※[#「けものへん+矍」、23-4]猿
蜀の西南の山中には一種の妖物が…