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中国怪奇小説集
ちゅうごくかいきしょうせつしゅう
作品ID1303
副題17 閲微草堂筆記(清)
17 えつびそうどうひっき(しん)
著者岡本 綺堂
文字遣い新字新仮名
底本 「中国怪奇小説集」 光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日
入力者tatsuki
校正者九尾乃雪舟斎
公開 / 更新2003-09-30 / 2014-09-18
長さの目安約 25 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 第十五の男は語る。
「わたくしは最後に『閲微草堂筆記』を受持つことになりましたが、これは前の『子不語』にまさる大物で、作者は観奕道人と署名してありますが、実は清の紀[#挿絵]であります。紀[#挿絵]は号を暁嵐といい、乾隆時代の進士で、協弁大学士に進み、官選の四庫全書を作る時には編集総裁に挙げられ、学者として、詩人として知られて居ります。死して文達公と諡されましたので、普通に紀文達とも申します。
 この著作は一度に脱稿したものではなく、最初に『[#挿絵]陽鎖夏録』六巻を編み、次に『如是我聞』四巻、次に『槐西雑誌』四巻、次に『姑妄聴之』四巻、次に『[#挿絵]陽続録』六巻を編み、あわせて二十四巻に及んだものを集成して、『閲微草堂筆記』の名を冠らせたのでありまして、実に一千二百八十二種の奇事異聞を蒐録してあるのですから、とても一朝一夕に説き尽くされるわけのものではありません。もしその全貌を知ろうとおぼしめす方は、どうぞ原本に就いてゆるゆる御閲読をねがいます」

   落雷裁判

 清の雍正十年六月の夜に大雷雨がおこって、献県の県城の西にある某村では、村民なにがしが落雷に撃たれて死んだ。
 明という県令が出張して、その死体を検視したが、それから半月の後、突然ある者を捕えて訊問した。
「おまえは何のために火薬を買ったのだ」
「鳥を捕るためでございます」
「雀ぐらいを撃つ弾薬ならば幾らもいる筈はない。おまえは何で二、三十斤の火薬を買ったのだ」
「一度に買い込んで、貯えて置こうと思ったのでございます」
「おまえは火薬を買ってから、まだひと月にもならない。多く費したとしても、一斤か二斤に過ぎない筈だが、残りの薬はどこに貯えてある」
 これには彼も行き詰まって、とうとう白状した。彼はかの村民の妻と姦通していて、妻と共謀の末にその夫を爆殺し、あたかも落雷で震死したようによそおったのであった。その裁判落着の後、ある人が県令に訊いた。
「あなたはどうしてあの男に眼を着けられたのですか」
「火薬を爆発させて雷と見せるには、どうしても数十斤を要する。殊に合薬として硫黄を用いなければならない。今は暑中で爆竹などを放つ時節でないから、硫黄のたぐいを買う人間は極めてすくない。わたしはひそかに人をやって、この町でたくさんの硫黄を買った者を調べさせると、その買い手はすぐに判った。更にその買い手を調べさせると、村民のなにがしに売ったという。それで彼が犯人であると判ったのだ」
「それにしても、当夜の雷がこしらえ物であるということがどうして判りました」
「雷が人を撃つ場合は、言うまでもなく上から下へ落ちる。家屋を撃ちこわす場合は、家根を打ち破るばかりで、地を傷めないのが普通である。然るに今度の落雷の現場を取調べると、草葺き家根が上にむかって飛んでいるばかりか、土間の地面が引きめくったように剥がれている…

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