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![]() わがばけんてつがく |
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作品ID | 1343 |
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著者 | 菊池 寛 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本の名随筆96 運」 作品社 1990(平成2)年10月25日 |
入力者 | 土屋隆 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2007-05-08 / 2014-09-21 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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次ぎに載せるのは、自分の馬券哲学である。数年前に書いたものだが、あまり読まれていないと思うので再録することにした。
一、馬券は尚禅機の如し、容易に悟りがたし、ただ大損をせざるを以て、念とすべし。
一、なるべく大なる配当を獲んとする穴買主義と、配当はともかく勝馬を当んとする本命主義と。
一、堅き本命を取り、不確かなる本命を避け、たしかなる穴を取る、これ名人の域なれども、容易に達しがたし。
一、穴場に三、四枚も札がかかると、もう買うのが嫌になる穴買主義者あり、これも亦馬券買いの邪道。
一、穴場の入口の開くや否や、傍目もふらず本命へ殺到する群集あり、本命主義の邪道である。他の馬が売れないのに配当金いずれにありやと訊いて見たくなる。甲馬乙馬に幾何の投票あるゆえ丙馬を買って、これを獲得せんとするこそ、馬券買の本意ならずや。
一、二十四、五円以下の配当の馬を買うほどならば、見ているに如かず、何となれば、世に絶対の本命なるものなければ也。
一、然れども、実力なき馬の穴となりしこと曾てなし。
一、甲馬乙馬実力比敵し、しかも甲馬は人気九十点乙馬は人気六十点ならば、絶対に乙を買うべし。
一、実力に人気相当する場合、実力よりも人気の上走しる場合、実力よりも人気の下走しる場合。最後の場合は絶対に買うべきである。
一、その場の人気の沸騰に囚われず、頭を冷徹に保ち、ひそかに馬の実力を考うべし。その場の人気ほど浮薄なるものなし。
一、「何々がよい」と、一人これを云えば十人これを口にする。ほんとうは、一人の人気である。しかも、それが十となり百となっている。これ競馬場の人気である。
一、「何々は脚がわるい」と云われし馬の、断然勝ちしことあり、またなるほど脚がわるかったなとうなずかせる場合あり。情報信ずべし、しかも亦信ずべからず。
一、甲馬乙馬人気比敵し、しかも実力比敵し、いずれが勝つか分らず、かかる場合は却って第三人気の大穴を狙うにしかず。
一、大穴は、おあつらえ通りには、開かないものである。天の一方に、突如として開き、ファンをあっけに取らせるものである。何々が、穴になるだろうと、多くのファンが考えている間は、絶対にならないようなものである。それは、もう穴人気と云って、人気の一種である。
一、剣を取りて立ちしが如く、常に頭を自由に保ち固定観念に囚わるること勿れ、偏愛の馬を作ること勿れ。レコードに囚わるること勿れ、融通無碍しかも確固たる信念を失うこと勿れ。馬券の奥堂に参ずるは、なお剣、棋の秘奥を修めんとするが如く至難である。
一、一日に、一鞍か二鞍堅い所を取り、他は悉く休む人あり、小乗なれども亦一つの悟道たるを失わず。大損をせざる唯一の方法である。
一、損を怖れ、本命々々と買う人あり、しかし損がそれ程恐しいなら、馬券などやらざるに如かず。
一、一日に四、五…