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心から送る拍手
こころからおくるはくしゅ
作品ID15990
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第三十巻」 新日本出版社
1986(昭和61)年3月20日
初出「アカハタ」1948(昭和23)年5月9日
入力者柴田卓治
校正者土屋隆
公開 / 更新2007-12-22 / 2014-09-21
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 六十八歳になられた作家森田草平氏が入党されたということは、多くの人にいろいろと語りかけるいみを持っています。人間は理性のある限り、年齢にかかわらず正しいと思う生活に前進するものであるという愉快な一つの例でもあります。早く老いこむ半封建的なまた個人主義的なこれまでの文士気質を一しゅうするものであります。
 作家森田草平が平塚らいてうとの恋愛事件をとりあつかった「煤煙」という小説をかいたのは明治の末でした。ダヌンチオの「死の勝利」に影響されて当時の青鞜社風の女性の自我の覚醒と、対立者としての男性および恋愛との格闘を主題とした「煤煙」は自然主義的なリアリズムと、主観的ロマンチズムのまざりあった作品であったと記憶します。その森田氏は長篇「輪廻」をかきました。これも自然主義的なリアリズムの手法であり、部落の人々のゆがめられる人間性を主題としていたと思います。
 いま作品の名をおもい出せませんが赤穂義士の仇討に対してそれを唯封建的な忠義の行為と見ず、浪士たちの経済的事情やその他の現実的いきさつを主眼として扱ったものもあったようです。
 これから森田氏がどういう作品をかかれるか知らないけれども、六十八歳でこのまやかしだらけの日本の民主化に対して自分の社会人としての良心的在り場所を示されたことはうなずけます。
 一九三三年以後日本のファシズムと侵略戦争の推進に対して、不幸な日本人民とその芸術家であるべき作家はあまり無力でした。反ファシズム人民戦線運動がおこったときも、日本の文化人はその重要さを理解しないで、ファシズムと戦争反対との人民的階級の根拠をまっ殺しました。
 森田さんはもう二度と日本にこの悲劇をもたらすまいと思っておいででしょう。その同じ決意において、私たち民主作家は森田さんの前進する一歩に対して拍手をおくります。
〔一九四八年五月〕



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