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北斗と南斗星
ほくととなんとせい
作品ID1616
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2003-10-06 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 趙顔という少年が南陽の平原で麦の実を割っていると、一人の旅人がとおりかかった。旅人は管輅という未来と過去の判る人であった。その旅人は少年の顔を見て、
「お前さんは、なんという名だ、気の毒なことだ」
 と言った。少年は気になるので麦を割ることを止めて訊いた。
「なにが気の毒ですか、私は趙顔というのですが」
「そうかな、お前さんは、二十歳を過ぎないで、早世をするよ」
 少年はおどろいて旅人の前へ往って地べたへ顔をすりつけた。
「早世することを知っていらっしゃるなら、長生することも御存じでしょう、どうか教えてください」
「人の生命は、天が掌ってるから、わしの力では、どうすることもできない」
 旅人はこういってからずんずんとむこうの方へ歩いて往った。少年は自個一人の力ではどうにもならないので、父親に話して、父親から頼んでもらおうと思った。走ってすぐ近くにある自個の家へ帰り、父親の姿を見るなりあわただしく言った。
「お父さん、大変なことが出来ました、今、不思議な旅人が来て、私を見て、二十歳にならないで早世すると言いました、私は早世することが判るなら、長生することもできるだろうから、教えてくれと言ってたのみましたけれど、生命のことは、天が掌ってるから、わしにはどうにもできないと言って、往ってしまいましたが、あれは、ただの人でないと思います。お父さんが一緒に往って、頼んでください、きっとあの人は、長生することを教えてくれると思います」
 父親も驚いた。
「そうか、そいつは大変だ、一緒に往って、頼んでみよう」
 二人は厩へ往って馬を引出し、親子で乗りながら旅人の往った方へ向けて走らした。支那(中国)の里程で十里位も往ったところで、かの旅人の姿を見つけた。旅人に近くなると父親は馬から飛びおり、旅人の前へ往って地べたへ額をすりつけてお辞儀をした。
「今、忰から聞きますと、あなた様が、忰が早世するとおっしゃってくださいましたそうでございますが、天にも地にも一人しかない忰に先だたれましては、この世になんの望みもなくなります、どうかあなた様のお力で、忰の早世を逃れるようにしてくださいますまいか、お願いでございます」
「お前さんの忰であったか、困ったものだな」
「どうぞ、忰が長生いたしますように、一生のお願いでございます」
「人の生命は天が掌っているところだから、わしの手ではどうにもならんが」
 旅人は考えこんだがいい考えが浮んだと見えて、
「よし、それでは、他にしようがないから、ひと徳利の酒と、鹿の乾肉をかまえて置くがいい、卯の日にきっと往って、方法をしてやるから」
「ひと徳利の酒と、鹿の乾肉、承知いたしました、すぐかまえて置きますから、どうか忰が長生ができますような、方法をとってくださいますように」
「卯の日にはきっと往ってやる、かまえをして待ってるがいい」
 父親は喜んで旅人に…

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