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賭博の負債
とばくのふさい
作品ID1619
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-12-04 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 徳化県の県令をしていた張という男は、任期が満ちたのでたくさんの奴隷を伴れ、悪いことをして蒐めた莫大な金銀財宝を小荷駄にして都の方へ帰っていた。
 華陰へきた時、先発の奴僕どもは豚を殺し羊を炙って、主人の張の着くのを待っていた。黄いろな服を着た男がどこからきたともなしに入ってきて、御馳走のかまえをしてある処へ坐った。
「お前さんは、たれだ、そんな処へこられては困る、もう張令のお着きになる時分だ」
 奴僕の一人は豪い権幕で言ったが、黄いろな服の男は平気な顔をして動かない。ところへ張が着いた。奴僕どもはしかたなく皆でその男に手をかけて掴み出そうとした。
「おけ、おけ、そんなことをしなくってもいい」
 張は奴僕を制して黄いろな服の男に向って聞いた。
「君は、どこから来たのだね」
 黄いろな服の男は頷いて見せたが何も言わなかった。張は不思議な奴だと思ったが、悪人であるだけに気にもかけなかった。
「じゃ、まあいい、御馳走をしよう、酒でも飲んで往くがいい」
 大きな盃へ酒を注いで出さすと、黄いろな服の男はやはり黙って飲んだ。飲んでから羊の炙肉の方を見て欲しそうに眼を放さない。張はそれを見るとたくさん切ってやった。黄いろな服の男は旨そうに喫った。しかし、それでもまだもの足りなさそうな顔をしている。張は好奇心を起して、大きな餅を十四五出さして前へ置いてやった。黄いろな服の男はそれもぺろりと喫ってしまった。酒を入れてやるに従ってぐいぐい飲んだ。そして、やっと腹が一ぱいになるとはじめて詞を出した。
「私は人ではありません、新たに死ぬる人の名を記入した簿書を持って、使に往く者でございます」
 張はますます好奇心に駆られた。
「では、それを見せてくれないか」
 と言うと、黄いろな服の男は袋から軸になった物を出した。張が取って見ると、「泰山主者、金天府に牒す」と書き、その三行目に、「財を貪り、殺を好む前の徳化県の令張某」としてあった。泰山主者は東岳泰山の神、金天府は西岳華山の神で、泰山の神の神意によって張はもう死人の籍へ入れられていた。悪人の張も恐れて顔色が土のようになった。
「私は一家一門が広いから、後の始末をせずに死ぬると、大変なことになる、今、私の嚢の中には、数十万の金があります、これを差しあげますから、私の生命が延びるようにしてください」
 張は泣きだしてしまった。黄いろな服の男は言った。
「金はいりません、今日のお礼に教えてあげましょう、華山の蓮花峰の下に、劉綱という仙人がおります、そこへ往って頼みなさい、それに華山の神が、南岳の衝山の神と博奕をやって負け、その金を催促せられておりますから、まず華山廟へ往って、お礼に千金を献じますと言って、約束してから仙人の処へ往きなさい、なんとかなりますよ」
 そこで張は車をかまえて華山廟へ往き、牲牢を供え、千金を献上すると言って祈願し、…

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