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狐と狸
きつねとたぬき
作品ID1620
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-12-04 / 2014-09-18
長さの目安約 3 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 燕の恵王の墓の上に、一疋の狐と一疋の狸が棲んでいた。二疋とも千余年を経た妖獣であったが、晋の司空張華の博学多才であることを知って、それをへこますつもりで、少年書生に化けて、馬に乗って出て往こうとすると、華表神が呼び止めて、
「君達はどこへ往くのか」
 と聞いた。華表神とは墓の前にある鳥居の神である。狸は華表神の問いに答えて、
「司空の張華と、議論しに往くところだ」
 と言った。すると華表木の精が、
「張司空は才人であるから、二人が命を失うばかしでなく、その禍が俺たちにもかかってくる、どうかやめてくれ」
 と言ったが、狸と狐は聞かずに出かけて往った。
 そして二疋で、張華の処へ往って、張華に逢って議論をはじめたが、その議論にはさすがの張華も弱らされた。張華はこの少年たちはどうしても人間でないから、化けの皮を剥いでやろうと考えていると、知合の雷孔章という者がやってきた。張華は雷孔章の顔を見ると、
「怪しい書生が二人来ている」
 と言って話した。雷孔章は、
「君は国の棟梁で、賢者を薦め、不肖者を退けている人じゃないか、自個より議論が偉いといって、妖怪あつかいにするは怪しからん、しかし真箇に怪しいものなら、猟犬を伴れてきて、けしかけたらいいじゃないか」
 と言った。
 そこで張華は猟犬を伴れて、少年たちのいる室へ入ったが、少年たちは平気であった。
「僕達の才智は、天から与えられたものだ、それを却って妖怪として、犬を伴れてくるとは怪しからん」
 と狸の方が言った。張華はこれを聞くと、
「百年の精なれば、猟犬を見れば形を現わすが、千年の妖なら、千年の神木の火で見ればきっと形を現わす」
 と言った。雷孔章が、
「そんな神木がどこにあるか」
 と言うと、張華は、
「燕の恵王の塚の前の華表木が千年を経ているということだ」
 と言って、使をやってその木を取らした。その使が木の近くにゆくと、空に青い着物を着た小児が現われて、
「君はどこからきたのか」
 と言った。使は、
「張司空の処から華表木を取りにきた」
 と言った。すると小児は、
「あの古狸が馬鹿で、わしの詞を聞かなかったから、わしにも禍が及んできた」
 と言って泣きだしたが、すぐ見えなくなった。
 そこで使の者は華表木を伐ってみると、木の中から血が流れた。そして、その木を持って帰ってきて、それに火を点けてみると、狸と狐の姿が現われた。張華はその二疋をつかまえて[#挿絵]てしまった。



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