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老狐の怪
ろうこのかい
作品ID1622
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(一)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年5月6日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-12-04 / 2014-09-18
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




 志玄という僧があったが、戒行の厳しい僧で、法衣も布以外の物は身に著けない。また旅行しても寺などに宿を借らないで、郭外の林の中に寝た。ある時縫州城の東十里の処へ往って墓場へ寝た。ところで、その晩は昼のような月夜で四辺がよく見えた。ふと見ると、木の下に一疋の狐がいて、それが人のするように、傍にある髑髏を頭の上に乗っけて首を振り、そして落ちた物はやめて、他の髑髏を取って乗っけたが、三四回目に落ちないのが乗っかった。すると狐は傍の草の葉をちぎって、それを体につけだしたが、見る見る若い美しい女になった。
 その時馬の鳴声が聞えて、一人の男が馬に乗ってやってきた。それを見ると狐の女は、路の傍へ立って泣きだした。馬に乗っていた男は、女の泣いているのを見ると馬からおりて、
「なぜこんな処で泣いてる」
 と言って聞いた。狐の女は、
「私は易州の者でございますが、北門の張という人の許へ縁づいておりましたところで、去年になって夫に死なれ、財産もなくなったので、困って親の処へ帰るところでございますが、歩が遅いものでございますから、日が暮れて困っております」
 と言った。
 その男は易州の軍人であった。
「易州なら私の帰るところだ、穢い馬でかまわなければ、乗せて往ってあげよう」
 と言った。女は喜んで礼を言うので、軍人は女を抱いて馬に乗せようとした。それを見ると、志玄が出て往って、
「あなたの馬に乗せようとしている女は、人間じゃありません、狐の化けた奴ですよ」
 と言った。軍人は怒って、
「和尚さん、そんなことを言ってこの方を誣いては困ります」
 と言った。志玄は、
「あなたが真箇にしないなら、正体を現わしてお目にかけましょう」
 と言って、印を結んで真言を唱え、錫杖を振りあげて、
「早くもとの形にならないか」
 と言うと、狐の女は悶絶して倒れ、元の狐となって血を吐いて死んだ。そして、体には髑髏や草の葉がついていた。



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