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続黄梁
ぞくこうりょう
作品ID1658
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(二)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年8月4日
入力者Hiroshi_O
校正者noriko saito
公開 / 更新2004-12-03 / 2014-09-18
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 福建の曾孝廉が、第一等の成績で礼部の試験に及第した時、やはりその試験に及第して新たに官吏になった二三の者と郊外に遊びに往ったが、毘廬禅院に一人の星者が泊っているということを聞いたので、いっしょに往ってその室へ入った。星者は曾の気位の高いのを見ておべっかをつかった。曾は扇を揺かしながら微笑して聞いた。
「宰相になる運命があるのかないのか」
 星者は容を正して、
「二十年したら太平の宰相となります」
 と言った。曾はひどく悦んで、気位がますます高くなった。
 その帰りに小雨に値うた。曾はそこで仲間といっしょに旁の寺へ入って雨を避けた。寺の中には一人の老僧がいたが、目の奥深い鼻の高い僧で、蒲団の上に坐ったなりに傲慢な顔をして礼もしなかった。一行は手をあげて礼をして、榻にあがってめいめいに話したが、皆曾が宰相になれると言われたことを祝った。曾の心はひどく高ぶって、仲間に指をさして言った。
「僕が宰相になったなら、張兄を南方の巡撫にし、中表を参軍にしよう、我家の年よりの僕は小千把になるさ、僕の望みもそれで足れりだ」
 一座は大笑いをした。俄かにざあざあと降る雨の音が聞えてきた。曾はくたびれたので榻の間に寝た。二人の使者が天子の手ずから書いた詔を持ってきたが、それには曾太師を召して国計を決すとしてあった。曾は得意になって大急ぎで入朝した。
 天子は曾に席をすすめさして、温かみのある言葉で何かとおたずねになったが、やや暫くして、曾に三品以下の官は、意のままに任免することをお許しになり、宰相の着ける蟒衣と玉帯に添えて名馬をくだされた。曾はそこで蟒衣を被、玉帯を着け、お辞儀をして天子の前をさがって家へ帰ったが、そこは旧の自分の住宅でなかった。絵を画いた棟、彫刻をほどこした榱、それは壮麗の極を窮めたものであった。曾も自分で何のためににわかにこんな身分になったかということが解らなかった。そして、髯をひねりながら小さな声で人を呼ぶと、その返事が雷のように高く響いた。
 俄かに公卿から海から獲れた珍しい物を贈ってきた。傴僂のように体を屈めてむやみにお辞儀をする者が家の中に一ぱいになった。参朝すると六卿がうやまいあわてて、[#挿絵]をあべこべに穿いて出て迎えた。侍郎の人達とはちょっと挨拶して話をした。そして、それ以下の者には頷いてみせるのみであった。
 晋国の巡撫から十人の女の楽人を餽ってきた。それは皆美しい女であったが、そのうちでも嫋嫋という女と仙仙という女がわけて美しかった。二人はもっとも曾に寵愛せられた。曾はもう衣冠束帯して朝廷にも往かずに、毎日酒宴を催していた。ある日曾は、自分が賤しかった時、村の紳縉王子良という者の世話になったことを思いだして、自分は今こんなに栄達しているが、渠はまだ官途につまずいていて昇進しないから、一つ引きたててやらなくてはならないと思って、翌朝上疏して…

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