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劉海石
りゅうかいせき
作品ID1660
著者田中 貢太郎
文字遣い新字新仮名
底本 「中国の怪談(二)」 河出文庫、河出書房新社
1987(昭和62)年8月4日
入力者Hiroshi_O
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2003-10-27 / 2014-09-18
長さの目安約 5 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 劉海石は蒲台の人であった。十四歳の時にその地方に戦乱が起ったので、両親に従いて浜州に逃げて往って、其処に住んでいたが、その浜州に劉滄客という者があって、同じ教師について学問をした関係から仲が好くなって、とうとう義兄弟の約束をした。
 間もなく海石の両親が亡くなり、海石はその遺骨を奉じて蒲台の故郷へ帰ったので、二人の間の音問は絶えてしまった。
 滄客の家は頗る裕であった。年は四十になったところで二人ある児のうち、長男の吉というのは、十七歳で邑の名士となり、次男もまた慧であった。滄客はそのとき、邑の倪という家の女を妾にしてひどく愛していたが、半年ばかりして長男が脳の痛む病気になって歿くなった。夫妻はひどくそれを歎いたが、間もなくその妻君も病気になって歿くなった。そして三四箇月したところで、長男の[#挿絵]であった女も病気になってこれまた歿くなってしまった。そのうえに婢や僕もつぎつぎに歿くなったので、滄客は悲しみにたえられなかった。
 ある日、つくねんと坐って悲しんでいると、不意に門番がきて、海石が来たといって知らした。滄客は喜んで急いで戸口へ往って迎えてきた。二人はそこで寒いあついの挨拶をしようとした。ところで海石は驚いて言った。
「君は一家族が全滅するが、知らないかね」
 滄客はびっくりしたが、海石がどうしてそんなことを言うのかその理由が解らなかった。海石は言った。
「久しく逢わなかったが、君はこの頃、どうもしあわせが悪いようだね」
 滄客は泣きながら家の不幸を話した。海石もすすり泣きをしたが、やがて笑って言った。
「しかし、もう僕が来たから大丈夫だ、安心したまえ」
 滄客は言った。
「久しく逢わないうちに、医者の修業をしたかね」
 海石は言った。
「医者のことは知らない、家相と方位を見ることを、すこし習ったばかりだよ」
 滄客は喜んで、そこで家相を見てくれと言った。海石は中へ入って残らず家の内外を観まわったが、そのあとで家族の者を見たいと言いだした。滄客は海石の言うとおり、児、[#挿絵]、婢、妾、家族全体を座敷へ集めて、それに一いち指をさして教えた。滄客の指が妾の倪に往ったところで、海石は仰向いて大声に笑いだしたが暫くその笑声がやまなかった。一座の者は何事だろうと思って不思議がった。と見ると、倪がわなわなと慄えだして顔の色がなくなったが、にわかにその体が縮んで、二尺あまりになってしまった。海石は文鎮を持ってその首を撃った。その音が缶を打つ音のようであった。海石はそこでその髪をひっつかんで、後脳のところを検べた。三四本の白髪が其処にあった。海石はそれを抜こうとした。女は頸を縮めて啼いて、
「此処を出て往きますから、どうか抜かないでください」
 と言った。海石は怒って、
「汝はまだ悪い心がうせないのか」
 と言って、その白髪を抜いた。白髪を抜くと同時に女は毛の…

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