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猟人
りょうじん |
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作品ID | 1681 |
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著者 | 津村 信夫 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本の名随筆20 冬」 作品社 1984(昭和59)年6月25日 |
入力者 | とみ~ばあ |
校正者 | 今井忠夫 |
公開 / 更新 | 2000-12-25 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 5 ページ(500字/頁で計算) |
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鉄砲打ちと云ふものには、よく、秋の汽車の中で出会つた。赤ら顔で、大柄な、さうして大抵、沈黙勝ちな人が多い。
三等寝台のあつた頃だ。
初冬の寒い夜更け、信越線の或る駅から、上り列車に乗り込むと、私の座席に、鳥打帽を被つた二人の男が坐つてゐた。
一目見てすぐ猟人だとわかつたが、夥しい獲物を携へてゐた。さうして、その獲物の鳥の、足や羽根には、ところどころ雪粉がついてゐた。
二人は向ひ合つてゐるが、別に、話をしてゐるのでもない、只どちらかの顔に、時々満足らしい微笑が浮ぶ。
「どうれ、寝るとしようか」
やゝたつて、一人が云つた。相手は、軽くうなづいた。
多分、今日一日中、吹雪の中を信越の国境ひで獲物を追つてゐたのだらう、私はさう判断した。
何気なく、「見事な鳥ですね、それはなんですか」と私は話しかけた。すると、二人はたいへん不機嫌な顔になつた、さうして、一人の男が、「山鳥ですよ」と吐き出すやうに答へた。それはまるで怒つたやうな声であつた。それでゐて、別に人に悪い感じを与へるといふのでもなかつた。
私は下のベツドにやすんだ。男達は、もう一本紙巻煙草を根もとまで、美味さうに吸つてから、獲物を大切さうに提げて寝台の小さな梯子を登つて行つた。
目をつむつてからも、私は何故か、上に寝てゐる猟人と、その獲物のことが気になつた。あの氷漬けになつたやうな鳥達が、私の夢の中まで忍び込んで来るやうに思はれた。
戸隠ゆきの汽車の中で、うとうとしてゐると、私は肩をたゝかれた。渋ぶさうに目をあけると、私を呼び起した男は目の前に立つてゐた。赤ら顔の髭のある人であつた。背も随分高かつた。「すみませんね」と低いが、よく通る声で云つた。
私と並んで坐ると、男はゆつくり外套の隠しから、小瓶を出してきた。どうやら酒が這入つてゐるらしい。膝の上に新聞を一枚おいたが、別にそれを読むのでもない、又すつかり目をさまされてしまつた私に向つて、話しかけてもこない。思ひ出したやうに、その小瓶の酒をちびりちびり飲み初めた。その内男は小瓶の詰をすると、それを脇にかゝへ、頭をうしろにもたせかけた。二三分もすると、気持ちよささうに鼾をかき出した。足の間には、ずしりと重さうな袋が置いてあつた。
汽車の窓は、まだうす暗かつた。この男の仕事を初める物の音に、私はもう一度目をさました。
男は袋と猟銃を手にしてゐた。もうさいぜんの秘密めいた酒の小瓶は何処にしまつたのか見当らなかつた。
「いや、お邪魔をしました」男は私にそれだけ云つてから、今度はひとりごとのやうに、「夜明けまで、火に暖まつてゆかなくちや」と呟いた。思ひがけないやうな山間で、汽車がごくんと停ると、男は静かに降りて行つた。
その日の午后は、私は、飯綱原を走つてゐる乗合の客になつてゐた。
寒さの早いこのあたりでは、もう紅葉の時機はすぎて、黄色…