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作品ID | 1696 |
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著者 | 寺田 寅彦 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「花の名随筆4 四月の花」 作品社 1999(平成11)年3月10日 |
入力者 | もりみつじゅんじ |
校正者 | 多羅尾伴内 |
公開 / 更新 | 2003-05-21 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 1 ページ(500字/頁で計算) |
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白木蓮は花が咲いてしまつてから葉が出る。その若葉の出はじめには実に鮮かに明るい浅緑色をしてゐて、それが合掌したやうな形で中天に向つて延びて行く。丁度緑の焔をあげて燃ゆる小蝋燭を点しつらねたやうにも見える。
紫木蓮は若葉の賑かなイルミネーションの中から派手な花を咲かせる。濃い暗い稍冷たい紫の莟が破れ開いて、中からほんのり暖かい薄紫の陽炎が燃え出る。さうして花の散り終るまでにはもう大きな葉が一杯に密集してしまふ。
桜でも染井吉野のやうに花が咲いてしまつてから葉の出るやうな種類が開花の魁をして、牡丹桜のやうな葉と一緒に花をもつやうなのが、少しおくれて咲くところを見ると、これには何か共通な植物生理的な理由があるらしい。
人間でもなんだか、これに似た二種類があるやうな気がするが、何が「花」で何が「葉」だかが自分にはまだはつきり分らない。