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若き日の成吉思汗
わかきひのジンギスカン
作品ID1806
副題――市川猿之助氏のために――
――いちかわえんのすけしのために――
著者林 不忘 / 牧 逸馬
文字遣い新字新仮名
底本 「一人三人全集Ⅰ時代捕物釘抜藤吉捕物覚書」 河出書房新社
1970(昭和45)年1月15日
初出「キング」講談社、1934(昭和9)年7月
入力者川山隆
校正者松永正敏
公開 / 更新2008-08-19 / 2014-09-21
長さの目安約 69 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

      三幕六場

    人物
成吉思汗                 二十七歳
合撒児  成吉思汗の弟           二十四歳
木華里  四天王の一人、近衛隊長    三十歳
哲別   長老、四天王の一人      六十歳
忽必来  参謀長、四天王の一人
速不台  箭筒士長、四天王の一人
者勒瑪  主馬頭
巴剌帖木 成吉思汗の小姓        十四歳
汪克児  傴僂の道化役、成吉思汗の愛玩 三十歳位
箭筒士、侍衛、番士、哨兵、その他軍卒多勢、軍楽隊など。
札木合  札荅蘭族藩公         三十歳
合爾合姫 札木合の室          二十歳
台察児  札木合の弟          二十八歳
札荅蘭族の参謀、合爾合姫の侍女、伝令、支那(金の国)の交易商、その従者、花剌子模国の回々教伝道師、札荅蘭城下の避難民男女、その他城兵多勢。

    時代
蒙古のいわゆる鼠の年。わが土御門天皇の元久元年。

   第一幕 第一場

斡児桓河に沿い、抗愛山脈に分け入らんとする麓。納忽の断崖と称する要害の地に築かれたる札荅蘭族の山寨。石を積みて、絶壁の上に張り出したる物見台。下手、一段高き石畳の縁には、銃眼のあいた低い堡塁。堡塁の傍らに、旗竿を立て、黄色の地に、白の半月と赤い星を抱き合わせに染め抜いた、札荅蘭族の旗が掲げてある。上手に、城中へ通ずる鉄扉あり。
眼下はるかに塔米児、斡児桓両河の三角洲。川向うの茫洋たる砂漠には、成吉思汗軍の天幕、椀を伏せたように一面に櫛比し、白旄、軍旗等翩翻として林立するのが小さく俯瞰される。彼方は蜒々雲に溶け入る抗愛山脈。寄せ手の軍馬の蹄が砂漠の砂を捲き上げ、紅塵万丈として天日昏し。
真っ赤な空の下、揉み合う軍兵の呶号、軍馬の悲鳴、銅鑼の音、鏑矢の響き、城寨より撥ね出す石釣瓶など、騒然たる合戦の物音にて幕あく。

しばらく舞台無人。城の他の部分で攻防戦の酣なる模様。下手は断崖につづける望楼の端、一個処、わずかに石を伝わって昇降する口がある。上手の扉から金の国(支那)の商人が従者を伴れて、這うように出て来る。両人とも連日の空腹によろめき、今日の猛襲に恐怖昏迷している。

商人 おう、おう。ここは大丈夫らしいぞ。ここまではどうやら矢も飛んで来まい。いやどうも、こんな目に遭うくらいなら、死んだほうがましだ。
従者 まったくでございます。あの時、和林から別の道をとって、まっすぐお故郷へお帰りになればよかったものを。
商人 いや、お前にそれを言われると、面目次第もない。はるばるわが金の国から、織物、陶器などを持って来て、この蒙古の黒貂、羊皮、砂金などと交易するのは、まるで赤子の手を捻るような掴み取りだ。馬鹿儲けに調子づいて、ついこの奥地まで踏み込んだところが――。
従者 (主人を助け歩かせて、こわごわ下手の堡塁のほうへ近づき)思…

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