えあ草紙・青空図書館 - 作品カード

作品カード検索("探偵小説"、"魯山人 雑煮"…)

楽天Kobo表紙検索

金太郎
きんたろう
作品ID18337
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の神話と十大昔話」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年5月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-08-25 / 2014-09-17
長さの目安約 8 ページ(500字/頁で計算)

広告

えあ草紙で読む
▲ PC/スマホ/タブレット対応の無料縦書きリーダーです ▲

find 朗読を検索

本の感想を書き込もう web本棚サービスブクログ作品レビュー

find Kindle 楽天Kobo Playブックス

青空文庫の図書カードを開く

find えあ草紙・青空図書館に戻る

広告

本文より

     一

 むかし、金太郎という強い子供がありました。相模国足柄山の山奥に生まれて、おかあさんの山うばといっしょにくらしていました。
 金太郎は生まれた時からそれはそれは力が強くって、もう七つ八つのころには、石臼やもみぬかの俵ぐらい、へいきで持ち上げました。大抵の大人を相手にすもうを取っても負けませんでした。近所にもう相手がなくなると、つまらなくなって金太郎は、一日森の中をかけまわりました。そしておかあさんにもらった大きなまさかりをかついで歩いて、やたらに大きな杉の木や松の木をきり倒しては、きこりのまねをしておもしろがっていました。
 ある日森の奥のずっと奥に入って、いつものように大きな木を切っていますと、のっそり大きな熊が出て来ました。熊は目を光らせながら、
「だれだ、おれの森をあらすのは。」
 と言って、とびかかって来ました。すると金太郎は、
「何だ、熊のくせに。金太郎を知らないか。」
 と言いながら、まさかりをほうり出して、いきなり熊に組みつきました。そして足がらをかけて、どしんと地びたに投げつけました。熊はへいこうして、両手をついてあやまって、金太郎の家来になりました。森の中で大将ぶんの熊がへいこうして金太郎の家来になったのを見て、そのあとからうさぎだの、猿だの、鹿だのがぞろぞろついて来て、
「金太郎さん、どうぞわたくしも御家来にして下さい。」
 と言いました。金太郎は、「よし、よし。」とうなずいて、みんな家来にしてやりました。
 それからは金太郎は、毎朝おかあさんにたくさんおむすびをこしらえて頂いて、森の中へ出かけて行きました。金太郎が口笛を吹いて、
「さあ、みんな来い。みんな来い。」
 と呼びますと、熊を頭に、鹿や猿やうさぎがのそのそ出て来ました。金太郎はこの家来たちをお供に連れて、一日山の中を歩きまわりました。ある日方々歩いて、やがてやわらかな草の生えている所へ来ますと、みんなは足を出してそこへごろごろ寝ころびました。日がいい心持ちそうに当たっていました。金太郎が、
「さあ、みんなすもうを取れ。ごほうびにはこのおむすびをやるぞ。」
 と言いますと、熊がむくむくした手で地を掘って、土俵をこしらえました。
 はじめに猿とうさぎが取り組んで、鹿が行司になりました。うさぎが猿のしっぽをつかまえて、土俵の外へ持ち出そうとしますと、猿がくやしがって、むちゃくちゃにうさぎの長い耳をつかんでひっぱりましたから、うさぎはいたがって手をはなしました。それで勝負がつかなくなって、どちらもごほうびがもらえませんでした。
 こんどはうさぎが行司になって、鹿と熊が取り組みましたが、鹿はすぐ角ごと熊にひっくり返されてしまいました。金太郎は、
「おもしろい、おもしろい。」
 と言って手をたたきました。とうとういちばんおしまいに金太郎が土俵のまん中につっ立って、
「さあ、…

えあ草紙で読む
find えあ草紙・青空図書館に戻る

© 2024 Sato Kazuhiko