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淡路人形座訪問
あわじにんぎょうざほうもん
作品ID18367
副題其の現状と由来
そのげんじょうとゆらい
著者竹内 勝太郎
文字遣い旧字旧仮名
底本 「芸術民俗学研究」 福村書店
1959(昭和34)年3月1日 
入力者ブラン
校正者小林繁雄、門田裕志
公開 / 更新2005-01-10 / 2014-09-18
長さの目安約 44 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

         一、地元踏査

 一月十日雪の後の睛れやかな明石海峽を渡つて洲本へ上つた。同行三人、榊原紫峰君と青年畫家の片山君。とつつきに遊女町があるのも古い港の情趣であらう。既に夕闇が迫つゐるので外出を斷念した。地圖をひろげて明日の踏査のプランを考へ、曉鐘成編「淡路國名所圖會」その他を調べて二三準備をするにとどめた。
 同夜は宿を頼んだ同好の士島醫學士の厚意に依つて、特に三條村から操座を招いて、同家二階座敷に欄干を急造して演出して貰つた。これは淡路でも最も古い上村源之丞の座元を預つてゐる吉田傳次郎氏の一座であつて、恰も正月の休みに各巡業地先から操の人々が歸つて來てゐるので、今夜の操役は皆一流の上手ばかりを撰りすぐつて來たと云ふことであつた。三味線は土地の盲人師匠、太夫は素人の巧者と云ふ組合せで、それがまた一層民俗藝術の匂ひと色を強くした。演出曲目は成る可く古曲をと布望したが、舞臺が完全でない上に、小道具や衣裳や人形の頭など特殊なものを要求する關係から目ざした「國性爺」は見られず、先づ吉例「夷舞はし」と「三番叟」から始めて、華やかな「太閤記」尼ヶ崎の段、すすけた「恨鮫鞘」鰻谷の段、古風な「河原達引」堀川の段稽古場の五番が演ぜられた。
 然しその演技は豫想した程古拙でもなくまた土の匂ひも淡かつた。演出後吉田氏や來合せた土地の古老から操の由來に就いていろいろ質問して見たが、吉井太郎氏その他に依つて既に發表されてゐること以外には餘り多くの新説は聞き得なかつた。此の夜の私の手帳に筆録された分量は貧弱であつた。紫峰君自身は古い頭を求めるつもりで豫め蒐集を依頼してあつたらしいが、前回の時程優秀な古品は尠く、之れも大した收穫はなかつた模樣である。私達は稍[#挿絵]悲觀せざるを得なかつた。
 翌日は朝早く鼓の音に目をさまされた。訊いて見ると松の内のことで操の「三番叟祝ひ」が人形を持つて町家を廻つてゐるのだと云ふ。流石は地元だと昨夜の失望を取返して、島夫人に頼んでその一組を呼びこんだ。人形を舞はすものが三番叟を謠ひ、笛を吹き、鼓を打つものは扇型の薄い木片で拍子を取りつつ鼓を打ち、時に千歳黒尉の掛合に相方を務める。この人形は極小く、約一尺五寸位であるが、演技は昨夜の操と大差はない。幾分の短縮と粗雜さとがあることは云ふまでもない。然もこの謝儀は願主の心持次第であるが、先づ五錢が通り相場だと云ふに至つては寧ろ低額に過ぎ、彼等の經濟組織が依然封建時代的であるのに驚いた。
 朝食後自動車を傭うて片山君の案内で三原郡市村字三條に向つた。朝からの曇り空は遂に淡路に珍らしい雪を降らした。途中廣田村字廣田の廣田八幡を訪ねて、一路目的地三條の三條八幡に着いた。社頭の松の下に雪を避け、藁を焚いて暖を取りながら、吉田氏の内方に斡旋を乞うて百太夫社の開扉を待つたが、生憎責任者の組長が不在で遂に不可…

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