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舌切りすずめ
したきりすずめ |
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作品ID | 18378 |
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著者 | 楠山 正雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本の神話と十大昔話」 講談社学術文庫、講談社 1983(昭和58)年5月10日 |
入力者 | 鈴木厚司 |
校正者 | 大久保ゆう |
公開 / 更新 | 2003-09-02 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 9 ページ(500字/頁で計算) |
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一
むかし、むかし、あるところにおじいさんとおばあさんがありました。
子供がないものですから、おじいさんはすずめの子を一羽、だいじにして、かごに入れて飼っておきました。
ある日おじいさんはいつものように山へしば刈りに行って、おばあさんは井戸ばたで洗濯をしていました。その洗濯に使うのりをおばあさんが台所へ忘れていった留守に、すずめの子がちょろちょろかごから歩き出して、のりを残らずなめてしまいました。
おばあさんはのりを取りに帰って来ますと、お皿の中にはきれいにのりがありませんでした。そののりはみんなすずめがなめてしまったことが分かると、いじのわるいおばあさんはたいへんおこって、かわいそうに、小さなすずめをつかまえて、むりに口をあかせながら、
「この舌がそんなわるさをしたのか。」
と言って、はさみで舌をちょん切ってしまいました。そして、
「さあ、どこへでも出ていけ。」
と言って放しました。すずめは悲しそうな声で、「いたい、いたい。」と鳴きながら、飛んでいきました。
夕方になって、おじいさんはしばを背負って、山から帰って来て、
「ああくたびれた、すずめもおなかがすいたろう。さあさあ、えさをやりましょう。」
と言い言い、かごの前へ行ってみますと、中にはすずめはいませんでした。おじいさんはおどろいて、
「おばあさん、おばあさん、すずめはどこへ行ったろう。」
と言いますと、おばあさんは、
「すずめですか、あれはわたしのだいじなのりをなめたから、舌を切っておい出してしまいましたよ。」
とへいきな顔をして言いました。
「まあ、かわいそうに。ひどいことをするなあ。」
とおじいさんは言って、がっかりした顔をしていました。
二
おじいさんは、すずめが舌を切られてどこへ行ったか心配でたまりませんので、あくる日は、夜があけるとさっそく出かけていきました。おじいさんは道々、つえをついて、
「舌切りすずめ、
お宿はどこだ、
チュウ、チュウ、チュウ。」
と呼びながら、あてもなくたずねて歩きました。野を越えて、山を越えて、また野を越えて、山を越えて、大きなやぶのある所へ出ました。するとやぶの中から、
「舌切りすずめ、
お宿はここよ。
チュウ、チュウ、チュウ。」
という声が聞こえました。おじいさんは喜んで、声のする方へ歩いていきますと、やがてやぶの陰にかわいらしい赤いおうちが見えて、舌を切られたすずめが門をあけて、お迎えに出ていました。
「まあ、おじいさん、よくいらっしゃいました。」
「おお、おお、ぶじでいたかい。あんまりお前がこいしいので、たずねて来ましたよ。」
「まあ、それはそれは、ありがとうございました。さあ、どうぞこちらへ。」
こう言ってすずめはおじいさんの手をとって、うちの中へ案内しました。
すずめはおじいさんの前に手をついて…