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くらげのお使い
くらげのおつかい |
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作品ID | 18379 |
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著者 | 楠山 正雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本の神話と十大昔話」 講談社学術文庫、講談社 1983(昭和58)年5月10日 |
入力者 | 鈴木厚司 |
校正者 | 大久保ゆう |
公開 / 更新 | 2003-09-02 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 9 ページ(500字/頁で計算) |
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一
むかし、むかし、海の底に竜王とお后がりっぱな御殿をこしらえて住んでいました。海の中のおさかなというおさかなは、みんな竜王の威勢におそれてその家来になりました。
ある時竜王のお后が、ふとしたことからたいそう重い病気になりました。いろいろに手をつくして、薬という薬をのんでみましたが、ちっとも利きめがありません。そのうちだんだんに体が弱って、今日明日も知れないようなむずかしい容体になりました。
竜王はもう心配で心配で、たまりませんでした。そこでみんなを集めて「いったいどうしたらいいだろう。」と相談をかけました。みんなも「さあ。」と言って顔を見合わせていました。
するとその時はるか下の方からたこの入道が八本足でにょろにょろ出てきて、おそるおそる、
「わたくしは始終陸へ出て、人間やいろいろの陸の獣たちの話も聞いておりますが、何でも猿の生き肝が、こういう時にはいちばん利きめがあるそうでございます。」
と言いました。
「それはどこにある。」
「ここから南の方に猿が島という所がございます。そこには猿がたくさん住んでおりますから、どなたかお使いをおやりになって、猿を一ぴきおつかまえさせになれば、よろしゅうございます。」
「なるほど。」
そこでだれをこのお使いにやろうかという相談になりました。するとたいの言うことに、
「それはくらげがよろしゅうございましょう。あれは形はみっともないやつでございますが、四つ足があって、自由に陸の上が歩けるのでございます。」
そこでくらげが呼び出されて、お使いに行くことになりました。けれどいったいあまり気の利いたおさかなでないので、竜王から言いつけられても、どうしていいか困りきってしまいました。
くらげはみんなをつかまえて、片っぱしから聞きはじめました。
「いったい猿というのはどんな形をしたものでしょう。」
「それはまっ赤な顔をして、まっ赤なお尻をして、よく木の上に上がっていて、たいへん栗や柿のすきなものだよ。」
「どうしたらその猿がつかまるでしょう。」
「それはうまくだますのさ。」
「どうしてだましたらいいでしょう。」
「それは何でも猿の気に入りそうなことを言って、竜王さまの御殿のりっぱで、うまいもののたくさんある話をして、猿が来たがるような話をするのさ。」
「でもどうして海の中へ猿を連れて来ましょう。」
「それはお前がおぶってやるのさ。」
「ずいぶん重いでしょうね。」
「でもしかたがない。それはがまんするさ。そこが御奉公だ。」
「へい、へい、なるほど。」
そこでくらげは、ふわりふわり海の中に浮かんで、猿が島の方へ泳いで行きました。
二
やがて向こうに一つの島が見えました。くらげは「あれがきっと猿が島だな。」と思いながら、やがて島に泳ぎつきました。陸へ上がってきょろきょろ見まわしていますと、そこの…