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和尚さんと小僧
おしょうさんとこぞう
作品ID18387
著者楠山 正雄
文字遣い新字新仮名
底本 「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社
1983(昭和58)年4月10日
入力者鈴木厚司
校正者大久保ゆう
公開 / 更新2003-08-27 / 2014-09-17
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

     一

 大そうけちんぼな和尚さんがありました。何かよそからもらっても、いつでも自分一人でばかり食べて、小僧には一つもくれませんでした。小僧はそれをくやしがって、いつかすきを見つけて、和尚さんから、おいしいものを召し上げてやろうと考えていました。
 ある日和尚さんは檀家から、大そうおいしいあめをもらいました。和尚さんはそのあめをつぼの中に入れて、そっと仏壇の下にかくして、ないしょで独りでなめていました。
 ところがある日、和尚さんは、用事があって外へ出て行きました。出て行きがけに、和尚さんは小僧にいいつけて、
「この仏壇の下のつぼには、だいじなものが入っている。見かけはあめのようだけれど、ほんとうは、一口でもなめたら、ころりとまいってしまうひどい毒薬だ。命が惜しいと思ったら、けっしてなめてはならないぞ。」
 といい置いて、出て行きました。
 和尚さんが出てしまうと、小僧はさっそくつぼを引きずり出して、残らずあめをなめてしまいました。それから和尚さんの大切にしている茶わんを、わざと真っ二つに割って、自分は布団をかぶって、うんうんうなりながら、いまにも死にかけているようなふりをしていました。
 夕方になって、和尚さんが帰って来てみますと、中は真っ暗で、明りもついていませんでした。和尚さんはおこって、
「こらこら、小僧、何をしている。」
 とどなりました。すると小僧は布団の中から、虫の鳴くような声を出して、
「和尚さん、ごめん下さい。わたしは死にます。もうとても助かりません。死んだあとは、かわいそうだと思って、お経の一つも読んで下さい。」
 といいました。
 和尚さんは、だしぬけに妙なことをいわれて、びっくりしました。
「小僧、小僧、いったいどうしたのだ。」
「きょう、和尚さんのたいじなお湯飲みを洗っていますと、いきなり猫がじゃれかかって来て、そのひょうしに手をすべらして、お湯飲みを落としてこわしてしまいました。もうこれは死んで申しわけをするよりほかはないと思って、つぼの中の毒薬を出して、残らず食べました。もう毒が体中に回って、間もなく死ぬでしょう。どうかかんにんして、お経だけ読んでやって下さい。ああ、苦しい、ああ、苦しい。」
 といいながら、おいおい、おいおい、泣きました。

     二

 ある日、和尚さんは、御法事に呼ばれて行って、小僧が一人でお留守番をしていました。お経を読みながら、うとうと居眠りをしていますと、玄関で、
「ごめん下さい。」
 と人の呼ぶ声がしました。小僧があわてて、目をこすりこすり、行ってみますと、お隣のおばあさんが、大きなふろしき包みを持って来て、
「おひがんでございますから、どうぞこれを和尚さんに上げて下さい。」
 といって、置いて行きました。小僧はふろしき包みを持ち上げてみますと、中から温かそうな湯気が立って、ぷんとおいし…

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