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長い名
ながいな |
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作品ID | 18388 |
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著者 | 楠山 正雄 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「日本の諸国物語」 講談社学術文庫、講談社 1983(昭和58)年4月10日 |
入力者 | 鈴木厚司 |
校正者 | 大久保ゆう |
公開 / 更新 | 2003-08-26 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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一
ちょんきりのちょんさんのほんとうの名をだれも知りませんでした。何でも亡くなったこの子のおかあさんが、この子の運がいいように何かいい名前をつけようと、三日三晩考えぬいて、病気になって、いよいよ目をつぶるというときに、かすかな声で、
「ああ、やっと考えつきました。この子の名はちょん。」
といいかけたなり、もう口が利けなくなってしまったのです。そこでみんなはしかたがないので、「ちょん」きりで、名前が切れて無くなってしまったというので、「ちょんきりのちょんさん」とあだ名を呼ぶようになりました。そのあだ名がほんとうの名前になって、いつまでたっても、その子はちょんきりのちょんさんでした。
しばらくたって、ちょんきりのちょんさんのおとうさんが、二度めのおかあさんをもらいました。間もなくこのおかあさんにも子供が生まれて、ちょんきりのちょんさんにも弟が出来ました。するとある人がおかあさんに、子供に短い名前をつけると、その子の命は短いし、長い名前をつけるほど、その子の寿命は長いものだといって聞かせました。そこでおかあさんは、かわいい子に、せいぜい長い名前をつけてやりたいと考えて、とうとうつけもつけたり、
「ちょうにん、ちょうにん、ちょうじゅうろう、まんまる入道、ひら入道、せいたか入道、へいがのこ、いっちょうぎりの、ちょうぎりの、ちょうのちょうのちょうぎりの、あの山の、この山の、そのまた向こうのあの山越えて、この山越えて、桜は咲いたか、まだ咲かぬ、花より団子でお茶上がれ、お茶がすんだら三遍回って煙草に庄助。」
という、すてきもない長い名前をつけました。
二
兄弟はだんだん大きくなって、よくけんかをしました。すると弟はにいさんにさんざん悪いいたずらをしては、逃げて行って、遠くの方でまだからかっていました。
「ちょんきな、ちょんきな、ちょんちょん、きなきな。」
こういわれると、ちょんさんはくやしがって、負けずに弟の名前を呼んで、からかい返してやろうとしましたが、
「ちょうにん、ちょうにん、ちょうじゅうろう、まんまる入道、ひら入道、せいたか入道、へいがのこ、いっちょうぎりの、ちょうぎりの。」
と早口にやっているうちに、舌がもつれて、かんしゃくばかり起こってきました。その間に弟の方はどこかへ逃げて行ってしまいました。
ちょんさんのおとうさんはまた、ちょんさん、ちょんさんと、にいさんの方が名前が呼びいいので、何かにつけて、
「これをしろ、ちょんさん。あれをしろ、ちょんさん。」
と、ちょんさんばかりひどく使いました。いたずらをしても、
「これ、ちょんさん、ここへ来い。ごつん。」
とすぐやられますが、弟の方は、「まんまる入道、ひら入道、せいたか入道、へいがのこ、いっちょうぎりの、ちょうぎりの。」をやっているうちに、くたびれてしまって、おとうさん…