えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
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黄いろのトマト
きいろのトマト |
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作品ID | 1919 |
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著者 | 宮沢 賢治 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「新編 銀河鉄道の夜」 新潮文庫、新潮社 1989(平成元)年6月15日 |
入力者 | 土屋隆 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2005-04-19 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 17 ページ(500字/頁で計算) |
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博物局十六等官
キュステ誌
私の町の博物館の、大きなガラスの戸棚には、剥製ですが、四疋の蜂雀がいます。
生きてたときはミィミィとなき蝶のように花の蜜をたべるあの小さなかあいらしい蜂雀です。わたくしはその四疋の中でいちばん上の枝にとまって、羽を両方ひろげかけ、まっ青なそらにいまにもとび立ちそうなのを、ことにすきでした。それは眼が赤くてつるつるした緑青いろの胸をもち、そのりんと張った胸には波形のうつくしい紋もありました。
小さいときのことですが、ある朝早く、私は学校に行く前にこっそり一寸ガラスの前に立ちましたら、その蜂雀が、銀の針の様なほそいきれいな声で、にわかに私に言いました。
「お早う。ペムペルという子はほんとうにいい子だったのにかあいそうなことをした。」
その時窓にはまだ厚い茶いろのカーテンが引いてありましたので室の中はちょうどビール瓶のかけらをのぞいたようでした。ですから私も挨拶しました。
「お早う。蜂雀。ペムペルという人がどうしたっての。」
蜂雀がガラスの向うで又云いました。
「ええお早うよ。妹のネリという子もほんとうにかあいらしいいい子だったのにかあいそうだなあ。」
「どうしたていうの話しておくれ。」
すると蜂雀はちょっと口あいてわらうようにしてまた云いました。
「話してあげるからおまえは鞄を床におろしてその上にお座り。」
私は本の入ったかばんの上に座るのは一寸困りましたけれどもどうしてもそのお話を聞きたかったのでとうとうその通りしました。
すると蜂雀は話しました。
「ペムペルとネリは毎日お父さんやお母さんたちの働くそばで遊んでいたよ〔以下原稿一枚?なし〕
その時僕も
『さようなら。さようなら。』と云ってペムペルのうちのきれいな木や花の間からまっすぐにおうちにかえった。
それから勿論小麦も搗いた。
二人で小麦を粉にするときは僕はいつでも見に行った。小麦を粉にする日ならペムペルはちぢれた髪からみじかい浅黄のチョッキから木綿のだぶだぶずぼんまで粉ですっかり白くなりながら赤いガラスの水車場でことことやっているだろう。ネリはその粉を四百グレンぐらいずつ木綿の袋につめ込んだりつかれてぼんやり戸口によりかかりはたけをながめていたりする。
そのときぼくはネリちゃん。あなたはむぐらはすきですかとからかったりして飛んだのだ。それからもちろんキャベジも植えた。
二人がキャベジを穫るときは僕はいつでも見に行った。
ペムペルがキャベジの太い根を截ってそれをはたけにころがすと、ネリは両手でそれをもって水いろに塗られた一輪車に入れるのだ。そして二人は車を押して黄色のガラスの納屋にキャベジを運んだのだ。青いキャベジがころがってるのはそれはずいぶん立派だよ。
そして二人はたった二人だけずいぶんたのしくくらしていた。」
「おとなはそこらに居なかったの…