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狼森と笊森、盗森
オイノもりとざるもり、ぬすともり |
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作品ID | 1926 |
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著者 | 宮沢 賢治 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「宮沢賢治全集8」 ちくま文庫、筑摩書房 1986(昭和61)年1月28日 |
初出 | 「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日 |
入力者 | 土屋隆 |
校正者 | noriko saito |
公開 / 更新 | 2005-03-28 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 12 ページ(500字/頁で計算) |
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小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん南が狼森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはづれは盗森です。
この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名前がついたのか、それをいちばんはじめから、すつかり知つてゐるものは、おれ一人だと黒坂森のまんなかの巨きな巌が、ある日、威張つてこのおはなしをわたくしに聞かせました。
ずうつと昔、岩手山が、何べんも噴火しました。その灰でそこらはすつかり埋まりました。このまつ黒な巨きな巌も、やつぱり山からはね飛ばされて、今のところに落ちて来たのださうです。
噴火がやつとしづまると、野原や丘には、穂のある草や穂のない草が、南の方からだんだん生えて、たうとうそこらいつぱいになり、それから柏や松も生え出し、しまひに、いまの四つの森ができました。けれども森にはまだ名前もなく、めいめい勝手に、おれはおれだと思つてゐるだけでした。するとある年の秋、水のやうにつめたいすきとほる風が、柏の枯れ葉をさらさら鳴らし、岩手山の銀の冠には、雲の影がくつきり黒くうつゝてゐる日でした。
四人の、けらを着た百姓たちが、山刀や三本鍬や唐鍬や、すべて山と野原の武器を堅くからだにしばりつけて、東の稜ばつた燧石の山を越えて、のつしのつしと、この森にかこまれた小さな野原にやつて来ました。よくみるとみんな大きな刀もさしてゐたのです。
先頭の百姓が、そこらの幻燈のやうなけしきを、みんなにあちこち指さして
「どうだ。いゝとこだらう。畑はすぐ起せるし、森は近いし、きれいな水もながれてゐる。それに日あたりもいゝ。どうだ、俺はもう早くから、こゝと決めて置いたんだ。」と云ひますと、一人の百姓は、
「しかし地味はどうかな。」と言ひながら、屈んで一本のすゝきを引き抜いて、その根から土を掌にふるひ落して、しばらく指でこねたり、ちよつと嘗めてみたりしてから云ひました。
「うん。地味もひどくよくはないが、またひどく悪くもないな。」
「さあ、それではいよいよこゝときめるか。」
も一人が、なつかしさうにあたりを見まはしながら云ひました。
「よし、さう決めやう。」いままでだまつて立つてゐた、四人目の百姓が云ひました。
四人はそこでよろこんで、せなかの荷物をどしんとおろして、それから来た方へ向いて、高く叫びました。
「おゝい、おゝい。こゝだぞ。早く来お。早く来お。」
すると向ふのすゝきの中から、荷物をたくさんしよつて、顔をまつかにしておかみさんたちが三人出て来ました。見ると、五つ六つより下の子供が九人、わいわい云ひながら走つてついて来るのでした。
そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃へて叫びました
「こゝへ畑起してもいゝかあ。」
「いゝぞお。」森が一斉にこたへました。
みんなは又叫びました。
「こゝに家建てゝもいゝかあ。」
「ようし。」森は…