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注文の多い料理店
ちゅうもんのおおいりょうりてん
作品ID1927
著者宮沢 賢治
文字遣い新字旧仮名
底本 「宮沢賢治全集8」 ちくま文庫、筑摩書房
1986(昭和61)年1月28日
初出「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社、1924(大正13)年12月1日
入力者土屋隆
校正者noriko saito
公開 / 更新2005-03-28 / 2014-09-18
長さの目安約 12 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 二人の若い紳士が、すつかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴか/\する鉄砲をかついで、白熊のやうな犬を二疋つれて、だいぶ山奥の、木の葉のかさ/\したとこを、こんなことを云ひながら、あるいてをりました。
「ぜんたい、こゝらの山は怪しからんね。鳥も獣も一疋も居やがらん。なんでも構はないから、早くタンタアーンと、やつて見たいもんだなあ。」
「鹿の黄いろな横つ腹なんぞに、二三発お見舞まうしたら、ずゐぶん痛快だらうねえ。くる/\まはつて、それからどたつと倒れるだらうねえ。」
 それはだいぶの山奥でした。案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちよつとまごついて、どこかへ行つてしまつたくらゐの山奥でした。
 それに、あんまり山が物凄いので、その白熊のやうな犬が、二疋いつしよにめまひを起して、しばらく吠つて、それから泡を吐いて死んでしまひました。
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の眼ぶたを、ちよつとかへしてみて言ひました。
「ぼくは二千八百円の損害だ。」と、もひとりが、くやしさうに、あたまをまげて言ひました。
 はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じつと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云ひました。
「ぼくはもう戻らうとおもふ。」
「さあ、ぼくもちやうど寒くはなつたし腹は空いてきたし戻らうとおもふ。」
「そいぢや、これで切りあげやう。なあに戻りに、昨日の宿屋で、山鳥を拾円も買つて帰ればいゝ。」
「兎もでてゐたねえ。さうすれば結局おんなじこつた。では帰らうぢやないか」
 ところがどうも困つたことは、どつちへ行けば戻れるのか、いつかう見当がつかなくなつてゐました。
 風がどうと吹いてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。
「どうも腹が空いた。さつきから横つ腹が痛くてたまらないんだ。」
「ぼくもさうだ。もうあんまりあるきたくないな。」
「あるきたくないよ。あゝ困つたなあ、何かたべたいなあ。」
「喰べたいもんだなあ」
 二人の紳士は、ざわざわ鳴るすゝきの中で、こんなことを云ひました。
 その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒の西洋造りの家がありました。
 そして玄関には
RESTAURANT
西洋料理店
WILDCAT HOUSE
山猫軒
といふ札がでてゐました。
「君、ちやうどいゝ。こゝはこれでなかなか開けてるんだ。入らうぢやないか」
「おや、こんなとこにをかしいね。しかしとにかく何か食事ができるんだらう」
「もちろんできるさ。看板にさう書いてあるぢやないか」
「はいらうぢやないか。ぼくはもう何か喰べたくて倒れさうなんだ。」
 二人は玄関に立ちました。玄関は白い瀬戸の煉瓦で組んで、実に立派なもんです。
 そして硝子の開き戸がたつて、そこに金文字でかう書いてありました。
「どなたもどうかお入りください。決してご遠慮はありません」…

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