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マッチ売りの少女
マッチうりのしょうじょ
作品ID194
著者アンデルセン ハンス・クリスチャン
翻訳者大久保 ゆう
文字遣い新字新仮名
入力者大久保ゆう
校正者
公開 / 更新1999-12-29 / 2022-04-21
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 それは、ひどく寒いおおみそかの夜のことでした。あたりはもうまっくらで、こんこんと雪が降っていました。寒い夜の中、みすぼらしい一人の少女が歩いていました。ボウシもかぶらず、はだしでしたが、どこへ行くというわけでもありません。行くあてがないのです。ほんとうは家を出るときに一足の木ぐつをはいていました。でも、サイズが大きくぶかぶかで、役に立ちませんでした。実はお母さんのものだったので無理もありません。道路をわたるときに、二台の馬車がとんでもない速さで走ってきたのです。少女は馬車をよけようとして、木ぐつをなくしてしまいました。木ぐつの片方は見つかりませんでした。もう片方は若者がすばやくひろって、「子供ができたときに、ゆりかごの代わりになる。」と言って、持ちさってしまいました。だから少女はその小さなあんよに何もはかないままでした。あんよは寒さのために赤くはれて、青じんでいます。少女の古びたエプロンの中にはたくさんのマッチが入っています。手の中にも一箱持っていました。一日中売り歩いても、買ってくれる人も、一枚の銅貨すらくれる人もいませんでした。少女はおなかがへりました。寒さにぶるぶるふるえながらゆっくり歩いていました。それはみすぼらしいと言うよりも、あわれでした。少女の肩でカールしている長い金色のかみの毛に、雪のかけらがぴゅうぴゅうと降りかかっていました。でも、少女はそんなことに気付いていませんでした。
 どの家のまども明かりがあかあかとついていて、おなかがグゥとなりそうなガチョウの丸焼きのにおいがします。そっか、今日はおおみそかなんだ、と少女は思いました。一つの家がとなりの家よりも通りに出ていて、影になっている場所がありました。地べたに少女はぐったりと座りこんで、身をちぢめて丸くなりました。小さなあんよをぎゅっと引きよせましたが、寒さをしのぐことはできません。少女には、家に帰る勇気はありませんでした。なぜなら、マッチが一箱も売れていないので、一枚の銅貨さえ家に持ち帰ることができないのですから。するとお父さんはぜったいホッペをぶつにちがいありません。ここも家も寒いのには変わりないのです、あそこは屋根があるだけ。その屋根だって、大きな穴があいていて、すきま風をわらとぼろ布でふさいであるだけ。小さな少女の手は今にもこごえそうでした。そうです! マッチの火が役に立つかもしれません。マッチを箱から取り出して、カベでこすれば手があたたまるかもしれません。少女は一本マッチを取り出して――「シュッ!」と、こすると、マッチがメラメラもえだしました! あたたかくて、明るくて、小さなロウソクみたいに少女の手の中でもえるのです。本当にふしぎな火でした。まるで、大きな鉄のだるまストーブの前にいるみたいでした、いえ、本当にいたのです。目の前にはぴかぴかの金属の足とフタのついた、だるまストーブが…

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