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作品ID | 2103 |
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著者 | 夢野 久作 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「夢野久作全集6」 ちくま文庫、筑摩書房 1992(平成4)年3月24日 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | 土屋隆 |
公開 / 更新 | 2004-02-15 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 41 ページ(500字/頁で計算) |
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イヤア。失敬失敬。李発君というのは君かい。九大法文科の二年生……ウンウン。麻雀を密輸入して学資にしているんだってね。ウム。感心感心。当世の若い人間は、ソレ位の意気が無くちゃ駄目だよ。ウンウン。僕は名刺を持たないが……。ハハア。王君から聞いて知っているか。成る程成る程。どうぞよろしく……ナニ。日本語が拙いから許してくれ。ナアニ。よく解るよ。それ位出来れあ沢山だよ。……ヤ……ドッコイショ……と……ああ忙しかった。どうだい葉巻を一本……何だ喫らないのか。それじゃ僕だけ失敬する。
ちょうど上海を出る間際に王君の店から電話がかかって、君の事を頼んで来たからね。とりあえず僕の船室に案内するように命じておいたんだが……ドウかね。気に入ったかね僕の部屋は……尤も気に入らないたって、これより立派な部屋が無いんだから仕方がないがね。ハハハハ……この船は荷物船だから、サルーンなんて気の利いたものは無いんだ。つまり荷物がお客様なんだから、人間の方が虐待されるんだ。堂々たる海牛丸、二千五百噸の機関長が、コンナ部屋に跼まっているんだから推して知るべしだろう。ハハハ……迷惑だろうが長崎に着くまで、僕の寝台に寝てくれ給え。ナアニ僕は滅多にこの部屋で寝ないんだ。機関室の隅ッコにモウ一つ仕事部屋があるからね。毛布も枕もそこに置いて在るんだ。君のは今持って来さすからね。書物は無いが雑誌の古いのなら在る。持って来させようか。
ウンウン。
実は早く君の様子を見に来ようと思ったけれども、水先案内の野郎が乗っているうちは、機関室の方が、忙しいのでね。おまけに今日の奴は知らない奴だったが、新米と見えて、矢鱈に小面倒な文句ばかり並べやがったもんだからね。ナアニ、ここいらの水先案内なら、こっちが教えてやりたい位なんだが、新米でも何でも、水先を乗せるのが規則なんだから仕方がない。やっと今さっき水蒸汽で引上げて行きやがった。君見たろう……ウン……。もうこっちのもんだ。エコノミカル・スピードでブラリブラリと長崎へ着いて、ダンブロの荷物をタタキ上げれあ、後は南洋まわりと相場がきまっている。こう排日が非道くちゃ、荷物一つ動かないからね。ナアニ。済まない事があるものか。コンナ船に乗ったら、ソンナ小面倒な気兼ねは一切御無用だよ。国際的なルンペン船だからね。金儲けなら支那軍に売渡す鉄砲でも積込むんだ。怖いのは南支那海の三角波だけだよ。ハハハハ……。ナニ? 船賃? そんなもなあ要らないよ。王君がそう云やあしなかったかい。ウン。云ったけど気の毒だ。馬鹿な。納めるんなら十や二十の端た金じゃ駄目だよ。勿体なくも麻雀の密輸入じゃないか。百や二百じゃ承知しないぜ……ナニ……それじゃ算盤に合わない。それ見ろ、ハッハッハ。僕の好意で乗せてってやるんだ。他ならぬ王君の頼みだからね。上陸してから鰒でも奢り給え。それで沢山だ。ハハハ。お礼…