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舞姫
まいひめ
作品ID2165
著者与謝野 晶子
文字遣い新字旧仮名
底本 「現代日本文學大系 25 與謝野寛・與謝野晶子・上田敏・木下杢太郎・吉井勇・小山内薫・長田秀雄・平出修集」 筑摩書房
1971(昭和46)年4月5日
入力者福岡茂雄
校正者ちはる
公開 / 更新2000-11-30 / 2014-09-17
長さの目安約 17 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

西の京三本樹のお愛様に
このひと巻をまゐらせ候
あき


うたたねの夢路に人の逢ひにこし蓮歩のあとを思ふ雨かな

美くしき女ぬすまむ変化もの来よとばかりにさうぞきにけり

家七室霧にみなかす初秋を山の素湯めで来しやまろうど

恋はるとやすまじきものの物懲にみだれはててし髪にやはあらぬ

船酔はいとわかやかにまろねしぬ旅あきうどと我とのなかに

白百合のしろき畑のうへわたる青鷺づれのをかしき夕

わかき日のやむごとなさは王城のごとしと知りぬ流離の国に

歌を見てうつぼ柱に秋雨のつたふやうなる涙の落ちぬ

日輪に礼拝したる獅子王の威とぞたたへむうらわかき君

みさぶらひ御髪に似るは乱菊と申すと云ひぬ寝てのみあれば

かざしたる牡丹火となり海燃えぬ思ひみだるる人の子の夢

われと燃え情火環に身を捲きぬ心はいづら行方知らずも

山々に赤丹ぬるなる曙の童が撫でし頬と染まりける

花草の満地に白とむらさきの陣立ててこし秋の風かな

灯に遠きうすいろぞめのあえかさの落花に似るを怨女と云ふや

初夏の玉の洞出しほととぎす啼きぬ湖上のあかつきびとに

朝に夜に白檀かをるわが息を吸ひたまふゆゑうつくしき君

木蓮の落花ひろひてみほとけの指とおもひぬ十二の智円

罪したまへめしひと知ると今日を書き明日は知らずと日記する人を

春雨やわがおち髪を巣にあみてそだちし雛の鶯の啼く

二もとの橄欖しげる琅[#挿絵]の亭の四方を船かよひけり

春の山懸樋の水のとまりしを昨夜の狐とにくみたまひぬ

遠つあふみ大河ながるる国なかば菜の花さきぬ富士をあなたに

軒ちかき御座よ火の気と月光のなかにいざよふ夜の黒髪

松かげの藤ちる雨に山越えて夏花使野を馳すらむか

廻廊を西へならびぬ騎者たちの三十人は赤丹の頬して

きぬぎぬや雪の傘する舞ごろもうしろで見よと橋こえてきぬ

高き家に君とのぼれば春の国河遠白し朝の鐘なる

長雨や出水の国の人なかば集へる山に法華経よみぬ

夕にはちるべき花と見て過ぎぬ親もたぬ子の薄道心に

淡色の牡丹今日ちる時とせず厄日と泣きぬ病み僻む人

保津川の水に沿ふなる女松山幹むらさきに東明するも

萌野ゆき紫野ゆく行人に霰ふるなりきさらぎの春

二十六きのふを明日とよびかへむ願ひはあれど今日も琴ひく

髪香たき錦に爪をつつませておふしたてられ君にとつぎぬ

わが宿の春はあけぼの紫の糸のやうなるをちかたの川

ゆるしたまへ二人を恋ふと君泣くや聖母にあらぬおのれの前に

春いにて夏きにけりと手ふるれば玉はしるなり二十五の絃

すぐれて恋ひすぐれて君をうとまむともとよう人の云ひしならねど

ふるさとの潮の遠音のわが胸にひびくをおぼゆ初夏の雲

天とぶにやぶれて何の羽かある夢みであれな病める隼

大夏の近江の国や三井寺を湖へはこぶと八月雲す

われを見れば焔の少女君みれば君も火なり…

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