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中国怪奇小説集
ちゅうごくかいきしょうせつしゅう
作品ID2235
副題04 捜神後記(六朝)
04 そうじんこうき(りくちょう)
著者岡本 綺堂
文字遣い新字新仮名
底本 「中国怪奇小説集」 光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日
初出「支那怪奇小説集」サイレン社、1935(昭和10)年11月20日
入力者tatsuki
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2003-09-18 / 2022-01-23
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 第二の男は語る。
「次へ出まして、わたくしは『捜神後記』のお話をいたします。これは標題の示す通り、かの『捜神記』の後編ともいうべきもので、昔から東晋の陶淵明先生の撰ということになって居りますが、その作者については種々の議論がありまして、『捜神記』の干宝よりも、この陶淵明は更に一層疑わしいといわれて居ります。しかしそれが偽作であるにもせよ、無いにもせよ、その内容は『捜神記』に劣らないものでありまして、『後記』と銘を打つだけの価値はあるように思われます。これも『捜神記』に伴って、早く我が国に輸入されまして、わが文学上に直接間接の影響をあたうること多大であったのは、次の話をお聴きくだされば、大抵お判りになるだろうかと思います」

   貞女峡

 中宿県に貞女峡というのがある。峡の西岸の水ぎわに石があって、その形が女のように見えるので、その石を貞女と呼び慣わしている。伝説によれば、秦の時代に数人の女がここへ法螺貝を採りに来ると、風雨に逢って昼暗く、晴れてから見ると其の一人は石に化していたというのである。

   怪比丘尼

 東晋の大司馬桓温は威勢赫々たるものであったが、その晩年に一人の比丘尼が遠方からたずねて来た。彼女は才あり徳ある婦人として、桓温からも大いに尊敬され、しばらく其の邸内にとどまっていた。
 唯ひとつ怪しいのは、この尼僧の入浴時間の甚だ久しいことで、いったん浴室へはいると、時の移るまで出て来ないのである。桓温は少しくそれを疑って、ある時ひそかにその浴室を窺うと、彼は異常なる光景におびやかされた。
 尼僧は赤裸になって、手には鋭利らしい刀を持っていた。彼女はその刀をふるって、まず自分の腹を截ち割って臓腑をつかみ出し、さらに自分の首を切り、手足を切った。桓温は驚き怖れて逃げ帰ると、暫くして尼僧は浴室を出て来たが、その身体は常のごとくであるので、彼は又おどろかされた。しかも彼も一個の豪傑であるので、尼僧に対して自分の見た通りを正直に打ちあけて、さてその子細を聞きただすと、尼僧はおごそかに答えた。
「もし上を凌ごうとする者があれば、皆あんな有様になるのです」
 桓温は顔の色を変じた。実をいえば、彼は多年の威力を恃んで、ひそかに謀叛を企てていたのであった。その以来、彼は懼れ戒めて、一生無事に臣節を守った。尼僧はやがてここを立ち去って行くえが知れなかった。
 尼僧の教えを奉じた桓温は幸いに身を全うしたが、その子の桓玄は謀叛を企てて、彼女の予言通りに亡ぼされた。

   夫の影

 東晋の董寿が誅せられた時、それが夜中であったので、家内の者はまだ知らなかった。
 董の妻はその夜唯ひとりで坐っていると、たちまち自分のそばに夫の立っているのを見た。彼は無言で溜め息をついているのであった。
「あなた、今頃どうしてお退がりになったのです」
 妻は怪しんでいろいろにたず…

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