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中国怪奇小説集
ちゅうごくかいきしょうせつしゅう
作品ID2243
副題16 子不語(清)
16 しふご(しん)
著者岡本 綺堂
文字遣い新字新仮名
底本 「中国怪奇小説集」 光文社文庫、光文社
1994(平成6)年4月20日
入力者tatsuki
校正者小林繁雄
公開 / 更新2003-09-30 / 2014-09-18
長さの目安約 29 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 第十四の男は語る。
「わたくしは随園戯編と題する『子不語』についてお話し申します。
 この作者は清の袁枚で、字を子才といい、号を簡斎といいまして、銭塘の人、乾隆年間の進士で、各地方の知県をつとめて評判のよかった人でありますが、年四十にして官途を辞し、江寧の小倉山下に山荘を作って小倉山房といい、その庭園を随園と名づけましたので、世の人は随園先生と呼んで居りました。彼は詩文の大家で、種々の著作もあり、詩人としては乾隆四家の一人に数えられて居ります。
 子不語の名は『子は怪力乱神を語らず』から出ていること勿論でありますが、後にそれと同名の書のあることを発見したというので、さらに『新斉諧』と改題しましたが、やはり普通には『子不語』の名をもって知られて居ります。なにしろ正編続編をあわせて三十四巻、一千十六種の説話を蒐集してあるという大作ですから、これから申し上げるのは、単にその片鱗に過ぎないものと御承知ください」

   老嫗の妖

 清の乾隆二十年、都で小児が生まれると、驚風(脳膜炎)にかかってたちまち死亡するのが多かった。伝えるところによると、小児が病いにかかる時、一羽の[#挿絵][#挿絵]――一種の怪鳥で、形は鷹のごとく、よく人語をなすということである。――のような黒い鳥影がともしびの下を飛びめぐる。その飛ぶこといよいよ疾ければ、小児の苦しみあえぐ声がいよいよ急になる。小児の息が絶えれば、黒い鳥影も消えてしまうというのであった。
 そのうちに或る家の小児もまた同じ驚風にかかって苦しみ始めたが、その父の知人に鄂某というのがあった。かれは宮中の侍衛を勤める武人で、ふだんから勇気があるので、それを聞いて大いに怒った。
「怪しからぬ化け物め。おれが退治してくれる」
 鄂は弓矢をとって待ちかまえていて、黒い鳥がともしびに近く舞って来るところを礑と射ると、鳥は怪しい声を立てて飛び去ったが、そのあとには血のしずくが流れていた。それをどこまでも追ってゆくと、大司馬の役を勤める李氏の邸に入り、台所の竈の下へ行って消えたように思われたので、鄂はふたたび矢をつがえようとするところへ、邸内の者もおどろいて駈け付けた。主人の李公は鄂と姻戚の関係があるので、これも驚いて奥から出て来た。鄂が怪鳥を射たという話を聞いて、李公も不思議に思った。
「では、すぐに竈の下をあらためてみろ」
 人びとが打ち寄って竈のあたりを検査すると、そのそばの小屋に緑の眼をひからせた老女が仆れていた。
 老女は猿のような形で、その腰には矢が立っていた。しかし彼女は未見の人ではなく、李公が曾て雲南に在ったときに雇い入れた奉公人であった。雲南地方の山地には苗または※[#「けものへん+搖のつくり」、296-4]という一種の蛮族が棲んでいるが、老女もその一人で、老年でありながら能く働き、且は正直律義の人間であるので、李公が…

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