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奇妙な遠眼鏡
ふしぎなとおめがね
作品ID2306
著者香倶土 三鳥 / 夢野 久作
文字遣い新字新仮名
底本 「夢野久作全集1」 ちくま文庫、筑摩書房
1992(平成4)年5月22日
初出「九州日報」1925(大正14)年9月
入力者柴田卓治
校正者もりみつじゅんじ
公開 / 更新2000-04-04 / 2014-09-17
長さの目安約 14 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ある所にアア、サア、リイという三人の兄弟がありました。
 その中で三番目のリイは一番温柔しい児でしたが、ちいさい時に眼の病気をして、片っ方の眼がつぶっていましたので、二人の兄さんはメッカチメッカチとイジメてばかりおりました。
 リイは外へ遊びに行っても、ほかの子供にやっぱしメッカチメッカチと笑われますので、いつもひとりポッチであそんでいましたが、感心なことに、どんなに笑われてもちっとも憤ったことがありませんでした。
 ある時、三人の兄弟はお父さんとお母さんに連れられて、山一つ向うの町のお祭りを見に行きましたが、その時お父さんが、
「今日は三人に一つずつオモチャを買ってやるから、何でもいいものを云ってみろ」
 と云われました。
 アアは、
「何でも狙えばきっとあたる鉄砲がいい」
 と云いました。サアは、
「何でも切れる刀が欲しい」
 と云いました。又リイは、
「どこでも見える遠眼鏡が欲しい」
 と云いました。
 これを聞いたお父さんとお母さんはお笑いになって、
「お前達の云うものはみんな六ヶしくてダメだ。それにアアのもサアのも、鉄砲だの刀だの、あぶないものばかりだ。そんなものを欲しがるものじゃない。リイを見ろ。一番ちいさいけれども温柔しいから、欲しがるものでもちっともあぶなくない。みんなリイの真似をしろ」
 と、兄さん二人が叱られてしまいました。そうして何も買ってもらえずに、只お祭りを見たばかりでお家へ連れて帰られました。
 アアとサアと二人の兄さんは大層口惜しがって、今夜リイをウンとイジめてやろうと相談をしましたが、リイはチャンときいて知っておりました。
 その晩、兄弟三人は揃って、
「お父さんお母さん、お先へ……」
 と云って離れた室に寝ますと、間もなくアアとサアは起き上って、リイをつかまえて窓から外へ引ずり出して、そのまま窓をしめて寝てしまいましたが、リイは前から知っていましたから、声も出さずに兄さん達のする通りになっていました。
 リイはそのまま窓の外の草原に立って、涙をポロポロこぼしながら東の方を見ていますと、向うの草山の方が明るくなって、黄色い大きなお月様がのぼって来ました。
 リイはこんな大きなお月様を見たのは生れて初めてでしたから、ビックリして泣きやんで見ておりますと、不意にうしろの方からシャガレた声で、
「リイやリイや」
 と云う声がしました。
 リイはお月様を見ているところに不意にうしろから名前を呼ばれましたので、ビックリしてふり向きますと、そこには黒い三角の長い頭巾を冠り、同じように三角の長い外套を着た、顔色の青い、眼の玉の赤い、白髪のお婆さんが立っておりました。
 そのお婆さんはニコニコ笑いながら、外套の下から小さな黒い棒を出してリイに渡しました。そうしてリイの耳にシャガレた低い声でこういいました。
「リイ、リイ、リイ
 片目のリイ

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