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私の書斎
わたしのしょさい
作品ID2399
著者土田 杏村
文字遣い新字旧仮名
底本 「日本の名随筆 別巻6 書斎」 作品社
1991(平成3)年8月25日
入力者ふろっぎぃ
校正者浅原庸子
公開 / 更新2001-07-02 / 2014-09-17
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 標題だけは書いたが、さて何を書いて見ようといふ案もない。ただ自分も一介の読書生として、終日この書斎の中に籠居してゐるとでも書けばよいのであらうか。
 私の書斎、先づ大いさを言へば、四畳半、六畳、十畳の三室から出来てゐる私の家――といつても野の中の極めて小さいものだが、その全面積の約半ばが私の書斎だといふ訳である。本来この家を建てる時に私は京都の郊外もうんと離れたところに、他から読書執筆の妨げを受けないやうにといふことを考へてゐたのだ。随つて書斎はまた家の人達の住んでゐる処から話声の聞えない処へと選んで別構へにして建てた。始め二室から出来た洋館だつたが昨年十畳一室を増築した。ベッドをここへ置いて、今では終日をその中に籠居してゐる。桜井祐男君の拙宅への訪問記を見ると、「ブリキ屋根が見える」と書いてあるが、ブリキではなくて浅野スレートの屋根なのだ。もう一つ序でに言ふと桜井君は田の中に小さな雑木林があつてその中に拙宅が建つてゐるやうに言つてあつたが、これも雑木林ではなく、後で植ゑた拙宅の庭木なのだ。ただ植木師などを入れないで伸び放題にしてあるものだから雑木林にして了はれる。他の某君の訪問記には、病み上りの頭髪のやうだと書いてあつたが、いかにもその通りである。
 書斎の中には書物が雑然と置かれてゐる。最初私は四畳半を応接室に使つてゐたのだが、書物の置場に窮するとそんな悠長なことは言つてゐられない。ここには書架を二つ置き、周囲の壁には出来るだけ多くの棚をつくつて全然の書庫にして了つた。下にも雑然と書物を置いてある。六畳の室は書斎にも応接室にも書庫にも使つてゐる。狭いこと甚だしい。十畳の室はベッドを置いて全く私の居室だ。近来はこの室をおもに書斎として使つてゐる。書物はどの室にも詰まるだけ詰まつたので、次第に廊下を侵蝕し、他の居室を侵蝕し、寝室の床の間の上まで書物の山積となつて了つた。起きるも寝るも書物の中に埋まつてゐるのは愉快なことでなく、さつぱりした一室を欲しいと思つてゐるが、そんな贅沢などはとても言へないのである。
 自分は五六の店から書物を買つてゐる。洋書は丸善で隔日位に葉書で新刊書をしらせてくれる。支那の本は彙文堂の目録で持つて来て貰ふ。邦文書は三四の小売店が競争で持つて来てくれるから先づ心配はない。その中一軒は美術書専門で始終新らしいものを持つて来てくれる。古書は東京と大阪の五六の書店から目録を送つて貰ひ、それによつて買ふことにしてゐる。洋書では哲学と社会問題の本が最も多いだらう。多少は珍書もある。大学の図書館や研究室にないものもある。現代哲学の主要書は出来る限り集めるやうにしてゐる。
 十畳の室、即ち今の書斎は、日本物の研究書を集めることにし、今はそれに最も多くの骨を折つてゐる。民族学的研究の書は遺漏なく集めようとしてゐる。文学の方では、種々の古典文学書、俳…

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