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荒野の呼び声
こうやのよびごえ
作品ID2406
副題02 解説
02 かいせつ
著者山本 政喜
文字遣い新字新仮名
底本 「荒野の呼び声」 角川文庫、角川書店
1953(昭和28)年4月5日
入力者sogo
校正者砂場清隆
公開 / 更新2021-04-20 / 2021-03-27
長さの目安約 26 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 貧乏なためにろくろく学校へも行けず、様々な雑役をやつたり、製罐工場で一時間十セントの給料で犬のように働かされたりしたジャック・ロンドンは、その後密漁者の仲間にはいつたりして、ならず者と一しよに無茶な生活をつづけたが、その間にも読書し思索することを怠らなかつた。そういう生活から足を洗い、朝鮮、日本、シベリヤの近海まで出漁する海豹猟船に乗りこんで、船員としての修業を立派に果たして、下船すると再び腰をおちつけて工場労働者となつたが、その間にも読書と思索の努力をつづけ、母のすすめによつて書いた「日本沖の颱風」が新聞の懸賞作文の一等賞に入選したりしたこともあつた。
 漂然として全国放浪の旅に出て、社会のどん底と社会の裏面に否応なしに直面すると若いジャックの頭に一つの人間観、社会観が出来てきた。それは人生は一つのゲイム(競技、勝負事)である、という考えかたである。
 人生は一つの大きな、いつまでも継続する、急速に変化する、人間の全精力を吸収する、そしてしばしば決死的なゲイムである――万人がそれをやり、万人がそれに冒険的に参加する。もともと宇宙の原始力なるものがこのゲイムによつて、形の無かつた物に今日の自然的形態を与えたのであり、生命そのものが相争うエネルギーのゲイムから生じて、均衡を保ちリズムをもつ秩序をかち得たのである。そこで、生命はこの広い大地を戦場として、適応のゲイムを重ね、一方に脱落者を生ずると共に、他方には勝利者即ち生存者をだした。次には人間が陽のあたる場所を得んとする自然とのゲイム、それから周囲の生物とのゲイムの結果は、相つぐ勝利によつて人間の事実上の世界支配となつた。人間の世界支配が進むと共に、その人間の間に、人間と人間の間、民族と民族の間、部族と部族の間、群と群の間、各個人と他の凡ての個人の間のゲイムが進行する。
 こういう考えからして、若いジャックは、世界が自分に挑戦してくるこの大きなゲイムに参加するためには、先ず第一番に自分の今の苦しい環境を脱せねばならぬと結論した。先ずこの環境を脱して、別の新たな環境に入らねばならぬ。もしおめおめと生れたままの環境に服していたならば、ただの賃銀奴隷、あくせくと働くばかりの人間として終るだろう。
 彼の先人アンブローズ・ビアスが[#「アンブローズ・ビアスが」は底本では「アンブローズ・ピアスが」]言つたことがある――下層階級の者がその艱難と困苦を免れる唯一の方法は、下層階級からはいのぼつて、上流階級に入りこむことである。この考えをジャックは直ちにとつて、自分はよじのぼるのだ、しかもできるだけ早くよじのぼるのだと決心した。
 よし、自分はこのゲイムに男らしく参加しよう。いつまでも資本家の手中の人質であること、産業の搏奕打ちが[#「搏奕打ちが」はママ]ゲイムをやる時の多くのコマの一つになること、それはよした。今から資本家…

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