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お月さまいくつ
おつきさまいくつ |
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作品ID | 2423 |
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著者 | 北原 白秋 Ⓦ |
文字遣い | 新字旧仮名 |
底本 |
「日本の名随筆58 月」 作品社 1987(昭和62)年8月25日 |
入力者 | 土屋隆 |
校正者 | 門田裕志 |
公開 / 更新 | 2006-11-11 / 2014-09-18 |
長さの目安 | 約 4 ページ(500字/頁で計算) |
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お月さまいくつ。
十三七つ。
まだ年や若いな。
あの子を産んで、
この子を産んで、
だアれに抱かしよ。
お万に抱かしよ。
お万は何処へ往た。
油買ひに茶買ひに。
油屋の縁で、
氷が張つて、
油一升こぼした。
その油どうした。
太郎どんの犬と
次郎どんの犬と、
みんな嘗めてしまつた。
その犬どうした。
太鼓に張つて、
あつちの方でもどんどんどん。
こつちの方でもどんどんどん。(東京)
この「お月さまいくつ」の謡は、みなさんがよく御存じです。私たちも子供の時は、よく紅い円いお月様を拝みに出ては、いつも手拍子をうつては歌つたものでした。この童謡は国国で色色と歌ひくづされてゐます。然し、みんなあの紅い円いつやつやしたお月様を、若い綺麗な小母さまだと思つてゐます。まつたくさう思へますものね。
お月さんぽつち。
あなたはいくつ。
十三七つ。
そりやまだ若いに。
紅鉄漿つけて、
お嫁入りなされ。(伊勢)
[#挿絵]
ののさまどつち。
いばらのかげで、
ねんねを抱いて、
花つんでござれ。(越後)
[#挿絵]
あとさんいくつ。
十三一つ。
まだ年若いの。
今度京へ上つて、
藁の袴織つて着しよ。(紀伊)
[#挿絵]
お月さんいくつ。
十三七つ。
まだ年は若い。
七折着せて、
おんどきよへのぼしよ。
おんどきよの道で、
尾のない鳥と、
尾のある鳥と、
けいつちいや、あら、
きいようようと鳴いたとさ。(伊勢)
「おんどきよへ」とは、「今度京へ」といふのがなまつたのです。
[#挿絵]
お月さまいくつ。
十三七つ。
そりやちと若いに。
お御堂の水を、
どうどと汲もに。(美濃)
[#挿絵]
お月さま。お年はいくつ。
十三七つ。
お若いことや。
お馬に乗つて、
ジヤンコジヤンコとおいで。(尾張)
かういふ風に、「そりやまだ若いに。」と、みんな歌つてゐるから面白いのです。京へ上つたり、紅かねつけたり、お嫁入りしたり、赤ん坊を生んだりしてゐます。お馬のジヤンコジヤンコもおもしろいでせう。それにまた、「そりやまだ若い。若船に乗つて、唐まで渡れ。」(紀伊)といふのもあります。それから少し変つてゐるのに、一寸西洋の童謡見たやうなのがあります。それは珍らしいものです。
お月様いくつ。
十三七つ。
まだ年は若いど。
お月様の後へ、
小いちやつけ和尚が、
滑橋をかけて、
お月様拝むとて、
ずるずるすべつた。(下総)
これは、空のけしきが其のままに歌はれてゐます。小さい和尚さんは白い星か薄い霧のやうな星の雲かでせう。滑橋もさうした雲のながれでせう。天の川のやうな。ずるずる滑るところがをかしいではありませんか。
それから、その綺麗な若いお月様の小母さまに、みんながお飯を見せびらかしたり、またいろんなものをせびつたりします。やはり子供の小母さまですから。
お…