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ひらめの学校
ひらめのがっこう
作品ID24369
著者林 芙美子
文字遣い新字新仮名
底本 「林芙美子全集 第十五巻」 文泉堂出版
1977(昭和52)年4月20日
入力者林幸雄
校正者川向直樹
公開 / 更新2004-05-06 / 2014-09-18
長さの目安約 6 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 ひらめの学校の女の校長先生は、このごろお年をとって眼鏡をかけました。とても大きい眼鏡なので、生徒はびっくりしていました。
「まア、何て大きい眼鏡でしょうねえ。あれでは陸の上まで見えるでしょうよ。此の間、校長会議で竜宮へいらっした時、竜宮の街で、あの眼鏡を貰っていらっしゃった[#「しゃった」は底本では「しゃつた」]ンですって。」
 生徒たちは、海の底の砂地に腹這ってそんな話をしていました。とてもいいお天気で、海の底にもガラスのようなまっさおい光りが透けて、水泡がぷつぷつと舞いあがっているといった気持ちのいいお天気です。
「あっ、体操の先生よ。」
 この間、ハイキングにいらっして、ちょっと、尻尾をお怪我なすった体操の男の先生は、大きい尻尾にほうたいをしていらっしゃいました。
「先生、おはようございます。」
「先生、おはよう。」
 体操の先生はちょこんと紅白の運動帽をかぶって生徒たちのところへいらっしゃいました。
「今日は、みなさんを連れて、鯖村まで見学に行きます。みなさんが、いままでに見たこともない大きい怪物が天界から降って来たそうです。飛魚さんのようなかっこうをして、何だかものすごく大きくて動く事も出来ないものだそうです。」
 小さいひらめの生徒は、わあっと声をあげてよろこびました[#「よろこびました」は底本では「よろこまびした」]。気の早い生徒はもう浮きたって、ごぼごぼと舞い上ってゆくものもありました。
 体操の先生は、急に、ピリピリと笛を鳴らしました。
「あわてものは誰ですか、みんな二列に並んで、きちんと列をくずさないように泳ぐのですよ。この間みたいに、おこぜにいじめられると困るでしょう。いいですか、先生の後からしずかに泳ぐのですよ。鯖村では、村長さんがみんなに御馳走して下さるそうです。校長先生もいらっしゃるのですよ。鯖村まで、約二キロです。正しく列を組んで泳ぎましょう。」
 ひらめの学校の生徒は、さあっと二列に並びました。校長先生が、大きい眼鏡をかけて出ていらっしゃいました。生徒はいっせいに、平べったい尻尾をひらひらとうち振って校長先生をお迎えしました。校長先生の眼鏡はとても重いので、眼鏡のつるに、木で出来たブイがついていました。ブイが両側についているので、大きい眼鏡はゆらゆらと、校長先生のひくいおはなのまわりに、丁度都合よくつりあっています。
 海のなかでは、食べものも何も持って歩くことがないのです。何でもお金と云うものがいらないので、どこでも自由に食べる事が出来ました。
 ひらめの生徒の行列は校長先生の後から、愉しそうに泳いでゆきました。
 昆布の林を抜けたり、サンゴの森をくぐって行きました。時々、ぶりの家族が泳いで来ます。すると、体操の先生が、ピッと笛を吹きます。生徒は校長先生をまんなかにして、岩の上にぺたっと張りついて、ぶりの家族をやりすごして…

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