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おにおん倶楽部
おにおんクラブ
作品ID24374
著者林 芙美子
文字遣い旧字新仮名
底本 「童話集 狐物語」 國立書院
1947(昭和22)年10月25日
入力者林幸雄
校正者鈴木厚司
公開 / 更新2005-06-11 / 2014-09-18
長さの目安約 10 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

 大木繁、滑川浩太郎、片貝巖、奧平善一、これだけが、おにおん倶樂部のメンバアである。
 おにおん倶樂部の名付親は、巖ちゃんの兄さんの庄作さんで、英語でおにおんとは、玉葱の意味だそうである。この四人はとても仲良しだけれども、四人とも氣が弱くて、何にでも感激する。そしてすぐ泣くと云うので、庄作さんが、おにおん倶樂部とあだなをつけたのだそうだ。繁ちゃんは六年生、浩ちゃんと善ちゃんは都立×中の一年生、巖ちゃん[#「巖ちゃん」は底本では「巖ちん」]は××商業の一年生である。
 空襲前のころは、四人とも麹町×町の同じ町内にいたのだけれども、空襲で自分の町が燒けてしまうと、この四人はてんでんばらばらになって、終戰後、お互いの住所が判って、また四人はいっしょに會うようになった。
 繁ちゃんは三鷹の叔父さんの家にいた。
 浩ちゃんは鎌倉雪の下のお姉さんのお嫁入りさきにいた。
 巖ちゃんは中野の小瀧町に借家をして住んでいた。
 この三人は家じゅう、誰もみな元氣でいたけれども、善ちゃんだけは、お父さんがビルマで戰死して、お母さんは甲府の疎開さきで病氣で亡くなって、お姉さんと二人で東京へ戻って來た。いまは池上の叔父さんの家にいる。
 月のうち、一度は小瀧町の巖ちゃんのうちにあつまる事になっていた。四人があつまると、狹い家の中が、まるでお祭りみたいに賑かになって、ラジオを十臺も鳴らしているようだと庄作さんが冷かしている。
 おにおん倶樂部員は、月に一度は集るのだから、一ヶ月のうちに、何かいい事をして、その話を持ち寄ろうではないかと約束がきまった。
 何かいい事をすると云っても、わざと、いいことをつくる工風をするのは面白くないから、自然な氣持でいい事をすると云うのが、善ちゃんの意見である。だから、一つもいいことをしなくても仕方がない、嘘の氣持ちでそんなことをするのはごめんだと云うのも善ちゃんだったので、皆、善ちゃんの意見には賛成した。
 ところが、巖ちゃんはなかなかの冒險好きで、いつも、夢みたいな空想ばかりしているので、おにおん倶樂部員は、巖ちゃんの事を、煙りの巖ちゃんと云うあだなをつけていた。
 九月總會がまじかに迫っているので、煙りの巖ちゃんは、何かいいことをするチャンスはないかと考えていた。
 今日は日曜日。
 巖ちゃんは勉強をすませて、お母さまにつくってもらったパンを二つ、ポケットにいれて戸外へ出た。
 何かいいことはないかな。倶樂部員があっと云うような、いいことをしたいものだと思っていたので、見るもの聞くもの珍らしく、とうとう歩いて新宿驛に行ってみた。
 新宿驛は、まるでもう人の河のようである。流れてゆく人の波を見ていると、巖ちゃんは冒險好きな氣持がますますつのって來た。
 すると、驛の前で、たくさんの人の流れがうようよしているなかで、色眼鏡をかけた、盲目のひとが二人、しっか…

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