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晶子詩篇全集拾遺
あきこしへんぜんしゅうしゅうい
作品ID2558
著者与謝野 晶子
文字遣い新字旧仮名
底本 「定本 與謝野晶子全集 第九巻 詩集一」 講談社
1980(昭和55)年8月10日
「定本 與謝野晶子全集 第十巻 詩集二」 講談社
1980(昭和55)年12月10日
入力者武田秀男
校正者kazuishi
公開 / 更新2004-07-26 / 2014-09-18
長さの目安約 106 ページ(500字/頁で計算)

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本文より

明治三十二年



春月

別れてながき君とわれ
今宵あひみし嬉しさを
汲てもつきぬうま酒に
薄くれなゐの染いでし
君が片頬にびんの毛の
春風ゆるくそよぐかな。」
たのしからずやこの夕
はるはゆふべの薄雲に
二人のこひもさとる哉
おぼろに匂ふ月のもと
きみ心なきほゝゑみに
わかき命やさゝぐべき。」


わがをひ

やよをさなこよなれが目の
  さやけき色をたとふれば
夕のそらの明星か
  たわゝに肥えし頬の色は
濃染の梅に白ゆきの
  かゝれる色か唇の
深紅の色は汝をば
  はてなくめづる此をばの
ま心にしも似たるかな
  かたことまじり※[#「女+(「第−竹」の「コ」に代えて「ノ」)、「姉」の正字」、U+59CA、9巻-305-下-12]様と
我が名よばるゝそのたびに
  あゝわがむねに浪ぞ立つ。
あゝさるにても幼子よ
  恋故くちし此をばが
よきいましめぞ忘れても
  枯野か原をひとりゆく
かなしき恋をなすなかれ
  千草八千草さきみてる
そのはなぞのにぬる蝶の
  たのしき夢は見るもよし
あゝそれとてもつかのまよ
  思へばはかなをさな子よ
など人の世にうまれ来し
  いつ迄くさのいつ迄も
かくてぞあらんすべもがな
  神のすがたをそのまゝに


後の身

生きての後ののちの身は
 何にならんと君は思ふ
  恋しき人はほゝゑみて
   我は花咲く木とならむ

さらばゆかしき桜木か
 朝日に匂ふさま見れば
  君が心にふさはしき
   すがたは外にあらじかし

さかりいみじき一ときの
 夢は昨日とすぎされば
  今日はとひこん人もなき
   心のうらを見んもうし

さらば軒端のたちばなか
 しづかふせやのうち迄も
  香あまねき匂ひこそ
   君が心のそれならめ

昔の恋を思ひねの
 夢のまくらに香りゆき
  たまも消ゆべくわび人の
   なげく涙を我は見じ

されば深山の楓にか
 千入にそむるくれなゐの
  もゆる思ひのある君と
   頼める我の違へりや

きみがかごとぞおかしさよ
 秋のもみぢと我ならじ
  立田の姫の御心に
   淡きと濃きの恨あり

うつろひやすき人の世に
 ときめく木々ぞうたてかる
  松の千年はたのまねど
   ゆるがぬ色のなつかしや

ミユーズの神のすべ給ふ
 岩間の清水わくほとり
  枝をかはして君と我
   松の大樹とならんかな

夏の山行く旅人に
 涼しき影をつくるべく
  いろうるはしき乙女子が
   恋のさはりをなげく時

うき世のうさ蔽ふべく
 若き詩人の木のもとに
  恋のうたはむ夕あらば
   清きしらべをともに合さん
[#改ページ]

明治三十三年



わかれ

君埋れ木の時を得て
 花もみもあるかの君に
  とつぎますなるよろこびを
   ことほぐことば我れもてど

別れの今のかなしさに
 おつる涙をい…

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