えあ草紙・青空図書館 - 作品カード
楽天Kobo表紙検索
樹木とその葉
じゅもくとそのは |
|
作品ID | 2625 |
---|---|
副題 | 09 枯野の旅 09 かれののたび |
著者 | 若山 牧水 Ⓦ |
文字遣い | 旧字旧仮名 |
底本 |
「若山牧水全集 第七卷」 雄鷄社 1958(昭和33)年11月30日 |
入力者 | 柴武志 |
校正者 | 浅原庸子 |
公開 / 更新 | 2001-05-03 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 2 ページ(500字/頁で計算) |
広告
広告
○
乾きたる
落葉のなかに栗の實を
濕りたる
朽葉がしたに橡の實を
とりどりに
拾ふともなく拾ひもちて
今日の山路を越えて來ぬ
長かりしけふの山路
樂しかりしけふの山路
殘りたる紅葉は照りて
餌に餓うる鷹もぞ啼きし
上野の草津の湯より
澤渡の湯に越ゆる路
名も寂し暮坂峠
○
朝ごとに
つまみとりて
いただきつ
ひとつづつ食ふ
くれなゐの
酸ぱき梅干
これ食へば
水にあたらず
濃き露に卷かれずといふ
朝ごとの
ひとつ梅干
ひとつ梅干
○
草鞋よ
お前もいよいよ切れるか
今日
昨日
一昨日
これで三日履いて來た
履上手の私と
出來のいいお前と
二人して越えて來た
山川のあとをしのぶに
捨てられぬおもひもぞする
なつかしきこれの草鞋よ
○
枯草に腰をおろして
取り出す參謀本部
五萬分の一の地圖
見るかぎり續く枯野に
ところどころ立てる枯木の
立枯の楢の木は見ゆ
路は一つ
間違へる事は無き筈
磁石さへよき方をさす
地圖をたたみ
元氣よくマツチ擦るとて
大きなる欠伸をばしつ
○
頼み來し
その酒なしと
この宿の主人言ふなる
破れたる紙幣とりいで
お頼み申す隣村まで
一走り行て買ひ來てよ
その酒の來る待ちがてに
いまいちど入るよ温泉に
壁もなき吹きさらしの湯に