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樹木とその葉
じゅもくとそのは
作品ID2628
副題13 釣
13 つり
著者若山 牧水
文字遣い旧字旧仮名
底本 「若山牧水全集 第七卷」 雄鷄社
1958(昭和33)年11月30日
入力者柴武志
校正者浅原庸子
公開 / 更新2001-05-25 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




ソレ、君と通つて
此處なら屹度釣れると云つた
あの淀み
富士からと天城からとの
二つの川の出合つた
大きな淀みに
たうとう出かけて行つて釣つて見ました
かなり重い錘でしたが
沈むのによほどかゝる
四尋からの深さがありました
とろりとした水面に
すれ/\に釣竿が影を落す
それだけで私の心は大滿足でした
山の根はいゝが
惜しいことに
釣つてゐる上に道がある
なるたけ身體を
小松の蔭にかくしてゐるのだが
竿だけは上から眼につく
「あたりますかナ」
一人の男が上に蹲踞んで云ふのです
「イヤ一向……
一體此處では何が釣れるのです」
この私の問には[#「問には」は底本では「間には」]
向うで困つたやうです
「さア……
うなぎ
なまづ
ふな
まア、まるた位ゐでせうナ……
餌は何です」
「みゝずです」
「みゝずなら
何にでもいゝ」
と言つてのそりと大きな男は立ち上りました
そして言ひ添へました
「どうも此頃
あたらなくなりましたよ」
「ですかねヱ……
左樣なら」
私は振返つて言ひました
そのうち
こまかな雨が來ました
身體のめぐりの
曼珠沙華が次第に濡れて
なんとも云へぬ赤い色です
それが水にも映つてる
對岸の藪の向うでは
見えはしないが
蟲送りでせう
かん、かん、かんと秋らしい鉦が聞える
富士から愛鷹にかけては
いちめんに塗りつぶした樣な雲で
私の釣竿からも
たうとう雫が落ち出しました



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