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ロシアの旅より
ロシアのたびより
作品ID2642
著者宮本 百合子
文字遣い新字新仮名
底本 「宮本百合子全集 第九巻」 新日本出版社
1980(昭和55)年9月20日
初出「読売新聞」1928(昭和3)年10月12、20日号
入力者柴田卓治
校正者米田進
公開 / 更新2002-11-05 / 2014-09-17
長さの目安約 2 ページ(500字/頁で計算)

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本文より




          一

 九月十四日の夜モスク[#挿絵]ァを立ち今日(十六日)はヴォルガ河を下って居ります。モスク[#挿絵]ァを立つときはステーションが間違って本当に自分の汽車の出るステーションへついたらもう出るばかり、ほとんど飛び乗るようにしてやっとニージニーノブゴロドまで来ました。それからヴォルガの船です。この旅行は当りました。ロシヤへ来てから本当に楽に安心して旅をたのしむ始めての経験です。大体ヴォルガは夏下るのが普通で、もう時季は少しおそいのです。然し河岸の樹木は紅葉しているし、天気は珍らしくおだやかだし石炭の煙はないし、実によい。私は河を船で下るなど、これが始めてですから大満足です。ヴォルガの河でロシヤのぼう大さを感じます。このハガキはカザンから出します。

          二

 九月二十二日 土曜日
(一) ヴォルガ河からスターリングラードへ十九日に上陸、それからウクライナの野を横切って、こちらで有名な温泉のあるキスロボードスク、ピヤチゴルスクに一晩ずつ泊りました。コーカサスに近づいたこのあたりの景色は雄大です。山が多い。その山が幾重にもうちかさなった彼方に雪をいただいた嶺があって、ちょうど那須野ケ原から日光連山を眺める、あの眺望の数千倍大きく、強いものだといえましょう。だが温泉へは入らず。こっちの温泉はドイツのバーデン・バーデンや何かと同じで、冷鉱泉をのんだり、医者に皆導かれて浴するので箱根へ行ったように、つくなり一風呂浴びて、ユカタに着かえるような気分は見られません。こちらは非常にリンゴが多い。それから乾草がよい。乾草車を大きな角の牛が二頭でひく、馬は有名なコーカサス馬だから、ふつうの貸馬車が二頭立で山坂をのぼります。
 今日は朝ピヤチゴルスクを出て、今はミネラーリヌイヴォドイというステーションのレストランでこのハガキを書いています。今夜はウラジカフカアズというコーカサス越えの手前の都会へゆきます。ウラジカフカアズから一日コーカサスの山越えをしてグルジアのチフリスという都会へ出ます。スターリンはここで生れました。この辺コーカサスを越えた南の地方の中心です。
〔一九二八年十月〕



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