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子供・子供・子供のモスクワ
こども・こども・こどものモスクワ |
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作品ID | 2644 |
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著者 | 宮本 百合子 Ⓦ |
文字遣い | 新字新仮名 |
底本 |
「宮本百合子全集 第九巻」 新日本出版社 1980(昭和55)年9月20日 |
初出 | 「改造」1930(昭和5)年10月号 |
入力者 | 柴田卓治 |
校正者 | 米田進 |
公開 / 更新 | 2002-11-08 / 2014-09-17 |
長さの目安 | 約 34 ページ(500字/頁で計算) |
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さあ、ちょっと机のごたごたを片よせて、
(――コップは窓枠の前へでものせといてください。)
モスクワ地図をひろげよう。
市の西から東・南に向って大うねりにのたくっているのは、誰でも知っているモスクワ河。その河が二股にわかれた北河岸に、不規則な三角形の城壁でとりまかれた一区廓は、全世界のブルジョアとプロレタリアートに一種の感銘をもってその名をひびかしているところのクレムリン。
この頃は城壁内の青草が茂って、ビザンチン式の古風な緑や茶色の尖塔はなかなか趣ある眺望だ。円屋根にひるがえる赤旗は、まわりを古風な建物がとりかこんでいるだけかえって新鮮で、光る白い雲の下で夏の歓びにあふれている。
クレムリンの城壁が終ったところに細い通りがあって――
ソラ! ここだ、労働宮というのは。
モスクワ河岸をAの電車にのってぐるりと行くと左手に素晴らしく印象的な白い建物があったろう。あれが労働宮である。組織と計画の理性の明るさそのものでがっしり組んで来るような颯爽たる大建築の内部には、社会主義労働の全組織網が納っているのだ。
ソヴェト全勤労者の祭日であるメーデーの前日からモスクワ市は一切酒類を売らせなかった。
当日は全市電車がない。乗合自動車もない。赤旗と祝祭の飾りものの間に十数万の勤労者の跫音がとどろいた。インターナショナルの高い奏楽と、空から祝いをふりまきつつ分列する飛行機のうなりがモスクワ市をみたした。
夜一時近く赤い広場は煌々たるイルミネーションと人出だ。朝から夕方までおびただしい人間の足の下にあった赤い広場の土はもうぽくぽくになっている。夜気の中でもそのほとぼりと亢奮がさめ切っていないところどころで、臨時施設の飲料水道の噴水があふれて、小さいぬかるみをこしらえている。新手な群集は子供や年寄づれで、ぞろぞろ河岸へ河岸へとねって行く。
国立百貨店の前、赤いプラカートの洪水だ。
――帝国主義とファシズムの犠牲者に階級の兄弟プロレタリアートからの挨拶を!
また、
――世界革命、万歳[#挿絵]
レーニン廟は修繕中である。今は「レーニン留守」の感じを与える。ひろい板がこいの上は生産に従う労働者と農民の鮮やかなパノラマ式画でおおわれ、赤いイルミネーションが、こっち側の歩道を歩く群集からも読める。
レーニニズムノ旗高ク
五ヵ年計画ヲ四年デ!
たなびく赤旗が強烈な夜の逆電光をうけとるといかに感動的な効果をもたらすか。昔の首斬台は一九三〇年のメーデーの夜そういう忘られぬ赤旗の美しさと労働者の力づよい群像で飾られている。ラジオ拡声機の大ラッパは広場じゅうへ活溌な行進曲を弾き出し、全景は赤い! 赤い!
黒い壁となって河岸まで押し出した群集は、カーメンヌイ・モストのたもとで一時ホッと息をいれた。河風は涼しい。遠くで夜空を燃している光の家、労働宮のイルミネーショ…